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絶対的な安心感をもたらす香りが鼻を擽る。
一番大好きで、常に傍にあるのが当然だと思っていた。
研究ラボの納品が無ければ、多分離れたりはしなかった。
龍嗣の傍に寄り添い、肌に触れ、香りを感じていなければ、璃音は心の平穏が保てない。
平穏が保てなくなれば、不安が心を支配し、日常のことすらままなくなる。
仕事だと自分に言い聞かせても、誤魔化しは効かない。
「………?」
久々の熟睡から覚めて、璃音は辺りを見回した。
「ここ…?」
簡易ベッドでもなく、無機質な内装でもない。
結婚してからずっと寝起きしている部屋だった。
「夢…じゃ、ない…?」
窓の外の景色を見ている内に意識が朦朧としたから、てっきり帰る夢を見ただけだと思ったのだが…。
「夢じゃない…の…かな…」
壁も天井も、見慣れたもの。
何より、寝具から大好きな龍嗣の香りがする。
トントントン…。
階段を上がって来る足音も、龍嗣のもの。
カチャッ。
「…………っ」
出来る限り静かにドアを開けたのだろう。
反射的に、璃音は目をきつく瞑った。
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