119 / 128

進撃(いや喜劇…いやいや悲劇!?)の学会13

 俺がギャーギャー騒いだら「うるさいぞバカ犬!」ってすぐに怒鳴ってくるはずのタケシ先生が妙に静かなことが、さらなる恐怖心を煽った。  御堂のヤツは気になったけどスルーして、振り返ってみる。俺に背を向けたまま、ぼーっとその場に突っ立っていた。 「周防、俺の着替えやるから、さっさとシャワー浴びてこい」  すると今度は俺の存在を無視して、御堂がタケシ先生に話しかけた。 「でも……」 「いつも着替えは大目に持ち歩いているから、気にする必要はない。服に血をつけたままでいたら、王領寺くんに嫌われちゃうぞ」 「分かりました。ありがとうございます」  あからさまな理由にツッコミを入れず、振り返るなり頭を下げて素直に従う姿に驚きを隠せなかった。  俺からの視線をびしばし浴びているというのに、横をそのまま通り過ぎ、無言で着替えを受け取る。パタンとバスルームに続く扉が閉まった途端に、御堂が大きなため息をつきながらベッドに腰かけた。 「御堂さん、タケシ先生と何かあったんですか?」 「あったよ。急患を目の前にしてるのに、アイツが応急処置を怠ったから」 ※詳しくは【歪んだ関係】(ゲイバーアンビシャスの前日譚にて掲載) 「あのタケシ先生が応急処置をしないなんて、そんなことはありえない……。俺が病院で頭を打ったときや、北海道のお父さんのいる島で溺れた子どもを助けているのに」 「詳しいやり取りは分からない。俺は救急車を呼ぶのに電話していたし。刺したヤツは刺されたヤツ以外には手を出していないから、通り魔じゃないのかもしれないな。何か恨みがあって、めった刺ししたのかも」 「めった刺しの重症患者の手当てをしなかったっていうのかよ……」  信じられない事実を独り言で告げたら、御堂は黙ったまま首を縦に振った。 「周防らしくないだろ。医者として最低だ」 (今、どんな気持ちでいるんだろう? めちゃくちゃ落ち込んだ顔をしていたから、あとで励ましてあげなきゃな)

ともだちにシェアしよう!