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進撃(いや喜劇…いやいや悲劇!?)の学会14
「アイツ、急患と何か熱心に喋っていたっけ。好きなヤツがどうとか、片想いなんて単語が出ていたな」
「片想い――」
「俺が周防を叱って応急処置をはじめたらその手伝いをせずに、患者の手を握りしめていたんだ。医者のくせにそれはないだろと内心呆れ果てていたら、んーと確か……『運命の人は、この世でひとりとは限らない。俺がそうだった、きっと巡り逢うことができる』なぁんて格好良く言い放っていたっけ」
御堂は意味ありげに俺の顔を見つめるなり、顔の片側だけを歪めるように笑いかけてきた。
「王領寺くんが周防にとって、運命の人だったんだな」
「それは……」
「謙遜することないさ。本人が認めてるじゃないか、俺がそうだったって」
タケシ先生が急患に告げた言葉を反芻してみる。
『片想い』というワードは間違いなく、桃瀬との恋愛についてだとすぐに分かった。だがそれを今日初めて逢った急患に教えるのは、どうにもおかしい。急患が苦しげに何かを言ったセリフに反応して、それを告げたのだろうか。
それと『運命の人』についてのくだりは、重症の急患が生きられる理由を与えるために、励ました言葉だったりするのかな。
「王領寺くんに頼みがある」
考え込んでいたところになされた御堂の頼み事に、ぎょっとするしかない。
「へっ? 俺に?」
「そう。だって俺は周防にとって、ただの先輩っていう立場だからさ」
肩をすぼめて眉間に皺を寄せる微妙な表情の御堂は、今の俺にとって人畜無害に見えた。
「何でしょうか?」
弱りきった顔を見ながら、恐々といった感じで訊ねてみる。
「今日の出来事で周防は医者として、何らかの壁にぶち当たったと思う。これまで自分がしてきた治療の意味や存在をもとに、とことん悩むと思うんだ」
タケシ先生が医者として悩む――。
「ドライな性格をしていたアイツが、君と付き合ったことにより、いい意味で変わったのが分かったからさ。だから悩んでしまう結末に至ったんだけど。支えてやってほしいと思って」
そんな難しそうな悩みに、俺がタケシ先生に寄り添うことができるのだろうか。
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