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進撃(いや喜劇…いやいや悲劇!?)の学会17

『周防が今みたいに患者に寄り添って、治療がしたい気持ちも分からなくはない。だがな今は緊急事態、そんな優しさは必要ないんだぞ。そればかりに囚われていたら駄目なんだ。医者として助けなきゃいけない義務が、目の前にぶら下がっているんだ!』  御堂先輩は俺の指導医として、大事なことを言葉だけじゃなく身をもって教えてくれた。  いついかなるときでも医者である立場を表していた、御堂先輩が持っていた牛革製のお洒落な鞄。ぱっと見は医療道具が入っている風に見えないそれを、彼はいつも持ち歩いていた。  今回の応急処置に、それが大活躍したんだ。  俺は久しぶりに出ることが許された学会に浮かれて、勉強道具しか持っていなかった。  最新医学を学ぶことに気を取られて、医者としての大切な何かをすっかり忘れてしまっていた。 「俺は……、医者失格だ」 「そんなことねぇよ!」  呟いた自分の声をかき消した聞き覚えのある声にハッとして、窓から声のしたほうに視線を飛ばしたら、すぐ傍まで歩が駆け寄って来ていた。 「らしくないじゃん、どうしたんだよ」 「ひとりにしてくれって言っただろ……」 「ひとりきりの時間はもうお終いだよ、タケシ先生」  言うなり、横からぎゅっと体を抱きしめる。 「おい、こんなところで――」 「大丈夫。みんな寝てる時間だし」 「でも……」  いつもなら抵抗して歩の腕を振り払っているところなのに、その力すら出ない。抱きしめた歩の片手が俺の背中をあやすように叩くせいで、余計に振り解けなかった。 「大丈夫だって。だから安心して俺に身を任せなよ」 「歩……」 「大丈夫、大丈夫――」  歩の優しい声が、心に染み入るように聞こえてきた。気がついたら自分から、大きな背中に両腕を回していた。触れ合ったところから伝わってくる温もりが、さらに安心感を与えてくれる。 「タケシ先生、辛かったら辛いって言えよな」 「あんまり言いたくないんだけど」  いい年をした大人の自分だからこそ、弱いところをお前に見せたくはないんだ。ちっぽけでひ弱な存在に、どうしても思われたくない――。

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