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進撃(いや喜劇…いやいや悲劇!?)の学会18

 俯かせていた顔を思いきって上げたら、小さく笑う歩と目が合った。 「強がってるタケシ先生もいいけど、お手上げ状態なタケシ先生も大好きだよ」 「なんだよ、それは」 「自分の心に、嘘をつくのはかまわない。だけど俺の前では素直でいて欲しい。タケシ先生に嘘をつかれると、俺は悲しいんだからな」 (恋人のお願いを、きかないわけにはいかないじゃないか――) 「歩、俺は――」 「うん」  じわりと歪んでいく視界の先にいる歩の顔が、水の中にいるような状態になった。鼻をすする音がフロアに響く。その音に情けなさを感じながら、ぽつぽつと口を開いた。 「俺ひとりきりだったら、さっきの患者を見殺しにしていたかもしれない……」 「どうして、そんな状況になるんだよ。だってタケシ先生は医者なのに。いつもなら冷静に対処しているだろ?」  痛いところを突いてくる恋人に、思いっきり視線を逸らしながら言葉を繋げる。 「刺された痛みに顔を歪ませた患者の声を聞いたら、治療の手が止まってしまったんだ」  俺を抱きとめていた片手が、俯いた顔を強引に上げさせる。無理やり合わせる歩の目から、視線が逸らせなかった。 「タケシ先生の手を止めるなんて、相当つらいことを言ってきたんじゃないのか?」 「歩……」 「俺の病気を治そうと、必死になった姿を見てるから分かる。救える命が目の前にあったら、絶対に助ける医者なんだもん。諦めるなんてことはしないだろ?」  言いながら、頬に伝った涙を拭ってくれた。 「お前がいるから、乗り越えられていると思ってた。今が幸せだったから、昔のことなんて全然思い出さなかったのに」 「昔のこと?」 「手遅れの恋――」  それを告げた瞬間、歩の目が大きく見開かれた。 「アイツのことが……桃瀬を好きな気持ちがまだあるんじゃ」 「そうじゃない、違うんだ!」  歩に誤解されたくなかったのもあり、静かにしなきゃいけない場所と時間帯だというのに、大きな声をあげてしまった。

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