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進撃(いや喜劇…いやいや悲劇!?)の学会19
「タケシ先生……」
沈みきった歩の声が、胸に突き刺さる感じで聞こえた。
「桃瀬を想う気持ちがあるとかじゃなくて、なんていうか……。そうだな、古傷と表現したら分かりやすいかもしれない。古傷が疼く感じがしたんだ」
「ずっと桃瀬に片想いをしていたタケシ先生だから、きっと浅い傷から深い傷まで、たくさんありそうな気がする」
「そうかもしれない。だから刺された患者の言葉に、つい耳を貸してしまった。俺は医者なのに……。治療を優先しなきゃいけない大怪我をしていた患者を目の前にして何もせずに、ただ手を握りしめて言葉を交わしていた」
歩に告げるのを躊躇していた自分の失態が、するすると流れるように言葉になっていく。そんな俺のセリフを聞いて、小さく何度も頷いてくれた。
「大怪我の治療は、確かに最優先事項かもしれない。だけどやっぱり、タケシ先生は医者なんだな」
落ち込んだ俺を宥めるように、頭をくちゃくちゃと撫でる。その手の温かさで、自動的に癒されてしまった。
「何を言ってるんだ。患者の治療を、俺はまったく施していないというのに」
「そのときのタケシ先生は、患者さんの心のケアを優先したじゃん。病は気からっていうだろ。今回のは刺された怪我で病じゃないけどさ、タケシ先生がかけた言葉がきっかけになって、患者さんは生きなければならないっていう気力が湧いてきたんじゃないかと思うんだ」
「そうだろうか――」
「ガンだった俺を、あの手この手で説得したタケシ先生だからこそ、間違いなく心のケアができてるって。絶対っ!」
片手を俺の頭に置いて熱弁する歩の顔を見つめながら、静かに呟いてみる。
「歩……、俺はこのまま医者でいて、いいんだろうか」
自信なさげな俺の視線の先にいたのは、右手の親指を立てながら満面の笑みで自分を見下ろす恋人の姿だった。
「いいに決まってるだろ。むしろ医者でいなくちゃ駄目だって。俺が憧れた、小児科医の周防武でいてくれよ!」
その言葉を聞いた途端に、鼻の奥がツンとした。ふたたび涙腺が決壊しそうになったけど、奥歯を噛みしめて我慢する。
ここは泣く場面じゃない――そう思ったから。
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