126 / 128

進撃(いや喜劇…いやいや悲劇!?)の学会20

 頭に乗せられたままの歩の手を叩き落として俯き、全身の力を抜くような深いため息を思いっきり吐いた。 「タケシ先生、大丈夫?」  一応両目を袖で擦ってから、勢いよく顔を上げる。鼻水が出ないように、すすることも忘れなかった。 「大丈夫に決まってるだろ。俺を誰だと思ってるんだ」  ちょっとしたことで簡単に不安定になる俺だけど、歩が傍にいてくれてよかったと改めて思わされる。 「もしかして俺の大好きな、いつものタケシ先生に変身したのかよ?」 「変身ってなんだ。俺はいつもの俺だバカ犬!」  こうして強がりを言えるのも、恥ずかしさを忘れて弱いところを晒すことができるのも、歩のお蔭なんだろうな。 「タケシ先生がいつもよりカッコよく見えるのは、どうしてなんだろうね?」 「それはお前の目に、恋人フィルターがかかっているからだろ」  言いながら大きな体に、ぎゅっと抱きついてやった。  こんな遅い時間帯に出歩く宿泊客は俺たちぐらいしかいないと思ったので、大胆な行動をしてみる。 「珍しいね。いつ誰が出てくるのか分からないこんな場所で、目立つことをするなんて」 「まぁな。でもたまには悪くないだろ?」  耳元で甘く囁いてから、シャープな頬にキスを落とした。 「ちょっ、タケシ先生ってば、そんなことして誘わないでよ。部屋に戻ってもできないんだからさ」 「誘ったつもりはない。ただの礼だよ、バカ犬」  笑いを噛み殺しつつ、両手で歩の頬をサンドする。力任せに潰された顔は、普段見ることのできないブサイクな間抜け面になっていて、思いっきり吹き出してしまった。

ともだちにシェアしよう!