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Love too late:遅すぎた恋心5
自宅に着いてリビングに桃瀬を降ろし、俺のパジャマに着替えさせる。医療従事者で良かったと思うのは、こういう作業を難なくこなせてしまうことだろう。
桃瀬は病人で動けない状態。そんなヤツを俺は看病すべく、パジャマを着せている――なぁんて無理矢理な設定を考え、不埒なことを考えないよう、さっさと作業を終えた。
「よっこらせっと!」
掛け声をかけて、くたくたの桃瀬を担ぎベッドに放り出す。結構乱暴に放り出したのに、まったく起きる気配がない。
「それだけ傷が深かった――ということなんだろうな」
浴びるように酒を呑み、ひとりで愚痴り倒して、言いたいことを言い尽くし、死んだように寝てしまった桃瀬。
俺は仲のいいただの友達だから、お前は何だって言えるんだろうけど正直、この状況は辛いんだぞ。ずっと好きだったんだから尚更――
「郁也……」
ベッドに腰掛けて、シャープな頬のラインを、右手人差し指でそっと撫でる。そしてそのまま、唇をなぞるように触れてみた。
――しっとりとしていて、柔らかい。
胸の奥がきゅっと疼いて思わず、引き寄せられるように顔を近づけキスをする。
「んっ――」
(わっ、バレた!?)
鼻にかかったような甘い声を出した桃瀬に驚き、すぐさま唇を離そうとしたら、身体に両腕をぎゅっと回されて、あっという間に部屋の景色が一転した。目に映るものは、寝室の天井と桃瀬の顔。
触れるだけだったキスが、そのままどんどん深いものへと変わっていく――吸い上げられながら舌を絡め取られ、俺を求めるコイツを拒むことなんで出来ない。
むしろ――
「…っ、……ンンっ」
むしろ、もっと俺を求めてほしい――愛してほしい……
「も、桃瀬っ……」
キスから解放されて喘ぐように、愛しい人を呼んでしまった。
そんな俺の声に答えず、首筋をなぞるように舌を這わせつつ、両手を使って服の上から身体を弄る。触れられたところが、どんどん熱を持ちはじめ、じわりと熱くて堪らなくなっていった。
何だ、これ――桃瀬を襲ったはずの自分が、何故か襲われていて。胸の中に甘い疼きが、こんこんと沸き上がっていき、どうしようもないほどの幸せを噛みしめてしまう。
「あぁっ、はぁ……」
俺の心と体が桃瀬を求めていく。
しかし、酔った勢いなのか寝呆けているのか分からない桃瀬に、このまま抱かれてしまっていいのだろうか? 気持ちよさと幸せを感じながら、桃瀬が目覚めたときのショックを考えはじめていたら――
「やっ!?」
下半身に伸ばされた手に、思いっきり感じてしまい、ビクッと身体が跳ねてしまった。その衝撃で桃瀬が顔を上げて、ぼんやりしながら俺を見る。
「…………?」
カーテンをしていない月明かりが照らし出す、ふたりきりの部屋の中。自分の身体の下には、肌蹴たところにキスマークを転々と付けた俺がいる状態。ナニが行われていたか、すぐに分かるであろう。
「すっ、すおおうぅ!?」
素っ頓狂な声を上げビックリついでに勢いよく、ベッドから派手に転がり落ちた。
「なな何で、お前とこんな……」
「何でって酷い。自分から押し倒して襲っておいてー」
「そんな!? 友達に対してこんなこと、するわけがないだろ」
嘘みたいな現実を、どうしても受け入れたくないのか、俺に向かって酷いことを言いながら頭を抱えて、首をぶんぶんと横に振りまくった。
「友達、ね――その友達に思いっきり手を出したのは、どこの誰だ?」
着ていたシャツを脱ぎ捨て、付けられたキスマークを、うりうりと見せつけてやる。
「うわっ、ゴメン……その、何か夢の中の出来事みたいな感じで」
「ももちんが幸せな夢の中でも、俺の中ではリアルなんだよー。しかも何なの、あのキスは?」
「ええっ!? キスしたのか?」
薄暗がりの中でも、赤面した桃瀬が分かってしまった。
そんな可愛い顔するなよ、もっと欲しくなってしまうじゃないか。
「……そうだよ。下手っクソなキスされた上、この場に押し倒されてさ。あんなんじゃ恋人出来ても、みんな逃げるっちゅーの」
見る間に落ち込み、俯いている桃瀬の顎を掴んで、強引に上向かせた。
「こうやって、感じさせなきゃダメなんだってば」
俺からの最初で最後のキス、受け取ってくれ――
無防備な桃瀬の唇に優しくキスをして、一瞬離れてから角度を変え、するりと舌を滑り込ませた。
「うっ、ふぅ……」
――これが俺の想いの熱なんだ、もっと感じ取ってくれ。
舌先を使って口内を犯す俺に、身体をビクつかせて、甘い声を上げる桃瀬。
「……っと、レクチャー終了!! もっと自分を磨けよな」
言いながら大きく振りかぶって、思いっきり頭を叩いてやる。
「いって! 周防、酔っ払ってんだろ」
(ああ酔ってるさ、お前にな……)
「何なの、その口の利き方。酔っ払ってたら、ももちんをおぶって、ここに帰って来れないでしょ」
「あ……ごめん」
「罰としてそこのコンビニ行って、ビール買ってきてよ。俺、全然呑めてないんだから」
リビングに置いてある、桃瀬の服を手渡した。
「帰って来たらシャワー浴びて、失恋パーティしよう」
「え? 周防も失恋したのか?」
「恋人よりも実習の患者さん、優先しちゃうから。キスが上手くても、振られちゃうわけ」
肩をすくめて桃瀬を見つめると、眉間に皺を寄せて口を尖らせる。
「何でそのこと、言ってくれなかったんだ。俺ばっか愚痴って、バカみたいだろ」
「俺よりも、ももちんの傷の方が深そうだったからねー。お前専属の医者として、治療を優先したまでだよ」
「まだタマゴのくせに、生意気だな。行って来る……」
少しだけ目元を潤ませ、逃げるように家を出て行った。
「泣きたいのは、こっちなのにな……」
思い出すだけでも、胸が締め付けられるように痛むんだ。
『そんな!? 友達に対してこんなこと、するわけがないだろ』
桃瀬が俺に対して、友達以上の感情を抱くはずがないのは、頭で分かっていたのに――覚悟していたのに実際それを口にされて、身体を貫くようなこの痛みを、どうすれっていうんだ。
「桃瀬が、こんなに好きなのに……」
頬に一筋、涙が流れた。俺はそれを拭わずにシャワーを浴びる。自分の気持ちと一緒に、洗い流すために。
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