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Love too late:遅すぎた恋心5
「すっ、すおおうぅ!?」
桃瀬は素っ頓狂な声をあげ、ビックリついでに、勢いよくベッドから派手に転がり落ちた。
「なななんで、おまえとこんな……」
「なんでって酷い。自分から押し倒して襲っておいてー」
「そんな!? 友達に対してこんなこと、するわけがないだろ」
嘘みたいな現実を、どうしても受け入れたくないのか、桃瀬は俺に向かって酷いことを言いながら頭を抱えて、首をぶんぶんと横に振りまくった。
「友達、ね。その友達に思いっきり手を出したのは、どこの誰だ?」
着ていたシャツを脱ぎ捨て、付けられたキスマークを、これでもかと見せつけてやる。
「うわっ、ゴメン……その、なんか夢の中の出来事みたいな感じで」
「ももちんがしあわせな夢の中でも、俺の中ではリアルなんだよー。しかもなんなの、あの拙いキスは?」
「ええっ!? キスしたのか?」
薄暗がりの中でも、赤面した桃瀬がわかってしまった。
(そんなかわいい顔するなよ、もっと欲しくなってしまうじゃないか)
「……そうだよ。下手っクソなキスされた上に、この場に押し倒されてさ。あんなんじゃ恋人ができても、みんな逃げるっちゅーの」
見る間に落ち込み、俯いている桃瀬の顎を掴んで、強引に上向かせた。
「こうやって、感じさせなきゃダメなんだ」
(俺からの最初で最後のキス、受け取ってくれ――)
無防備な桃瀬の唇に優しくキスをして、一瞬離れてから角度を変え、するりと舌を滑り込ませた。
「うっ、ふぅ……」
舌先を使って口内を犯す俺に、なんども躰をビクつかせて、甘い声をあげる桃瀬。
「……っと、レクチャー終了!! もっと自分を磨けよな」
言いながら大きく振りかぶって、思いっきり桃瀬の頭を叩いてやる。
「いって! 周防、酔っ払ってんだろ」
(ああ酔ってるさ、おまえにな……)
「なんなの、その口の利き方。酔っ払ってたら、ももちんをおぶって、ここに帰って来られないでしょ」
「あ……ごめん」
「罰としてそこのコンビニ行って、ビール買ってきてよ。俺、全然呑めてないんだから」
リビングに置いてある、桃瀬の服を手渡した。
「桃瀬が帰って来たらシャワーを浴びて、失恋パーティしよう」
「え? 周防も失恋したのか?」
「恋人よりも、実習の患者さんを優先しちゃうせいかな。だからキスがうまくても、振られちゃうわけ」
肩をすくめて桃瀬を見つめると、眉間に皺を寄せて口を尖らせる。
「なんでそのこと、言ってくれなかったんだ。俺ばっか愚痴って、バカみたいだろ」
「俺よりも、ももちんの傷の方が深そうだったからねー。おまえ専属の医者として、治療を優先したまでだよ」
「まだタマゴのくせに、生意気だな。行って来る……」
桃瀬は少しだけ目元を潤ませ、逃げるように家を出て行った。
「泣きたいのは、こっちなのにな……」
さっき告げられたセリフを思い出すだけでも、胸が締め付けられるように痛む。
俺に対して、桃瀬が友達以上の感情を抱くはずがないのは、頭でわかっていたのに――覚悟していたのにもかかわらず、実際それを口にされて、躰を貫くようなこの痛みを、どうすれっていうのだろうか。
「桃瀬が、こんなに好きなのに……」
頬に一筋、涙が流れた。俺はあえてそれを拭わずに、頭からシャワーを浴びる。自分の気持ちと一緒に、洗い流すために。
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