12 / 126

Love too late:おとしもの

 桃瀬が先に大学を卒業、念願の出版社に入社し、営業マンとして活躍している最中、俺は医師免許を無事に取得し、六年間の大学生活に別れを告げ、数年間研修医として医大に勤めたあと、親父が経営していた内科の病院をアレルギー専門の小児科医院に転換し、小児科医として頑張っていた。  俺が忙しくしているところに、桃瀬は営業の途中で急患を持ち込んだりして、相変わらずのお節介焼きなことをする。  呆れながらも対応する俺に、愛しの友人はとびきりの笑顔をくれた。それを見られるだけで充分だと思った。  だが今回の急患は、予想外の人物だった。桃瀬の初恋の人だったのだから。  そんなふたりが付き合いだして、仲良く同棲していると話を聞いた。それから数ヶ月後のある日。 「……わるぃ、周防。往診に来てくれないか?」 「でたよ、またこの時期なの! 寝込む前に病院に来いって、いつも言ってるでしょ!」  診察中に、いきなり電話がかかってきた。お盆から十月にかけての時期は、出版社はなにかと忙しいらしい。年末やら正月の調整でバタバタしていて、桃瀬はいつも体調を崩す。それでもお盆前は、なんとか病院に顔を出して、周防スペシャルという名の栄養たっぷりの注射をしてあげたから、このときは大丈夫だった。 「ゲホッ! 病院に顔を出す暇も作れなくってさ。気がついたら、ゲホゲホ……くっ、風邪引いちまった」  ところどころ咳きこみながら、すっごくつらそうに喋る。 「悪いけど午前中は診察があるから、そっちに行くのは昼からになるよ。熱は高いの?」  今日がちょうど土曜でよかった。平日なら夜になってしまうから。 「熱はそれほど、高くないんだけど。ゲホゲホッ! 咳がつらくて寝ていられない」 「胸から上を少し高くして横になれば、少しは咳が治まるからやってみて。加湿を忘れずに、大人しく待ってること!」  さっさと桃瀬に要件を告げて、電話を切った。  桃瀬と一緒に暮らしている涼一ってコは、なにをやってるんだか。無理をするなって、注意くらいできるだろうに!  内心ムカつきながら、待っているであろう患者さんの名前を呼び、診察をはじめる。今日も一日、忙しくなりそうだ。

ともだちにシェアしよう!