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Love too late:偽りの恋(太郎目線)
「あ、あのっ!」
振り返ると見知らぬ一年が、顔を赤くして階段の踊り場から俺を見下ろす。
「なに?」
どうして一年だと分かったか。それはネクタイの色がそれを示していたから。そしてこの状況・雰囲気で分かる。間違いなく俺は、コイツに告白されるであろう――
「先輩をずっと見てました! 好きなんです!!」
(ほらね、当たった)
帰ろうとして、階段を降りかけている最中の出来事。仰ぎ見た場所にある窓から差し込む光が眩しすぎて、すっと目を細めた。見ている相手の顔も、正直ぼんやりとしか見えない。
「別にいいけど。今、フリーだし。これから暇?」
俺が笑顔で訊ねると、コクコクと首と縦に動かした。
「俺ンち、来る?」
「えっ!? いきなりお邪魔していいんですか?」
赤面をキープしたまま、びっくり眼 で聞いてくる。
「お前、俺の恋人になりたいんだろ? その意味、分かってるよな?」
階段の踊り場で佇む一年に向かって数段下から、そっと手を伸ばしてみた。頬に触れると、俺に対する気持ちが熱となって表れているのが、はっきりと分かる。
「すっげー、熱くなってる。可愛いのな」
「せんぱ――」
開きかけた唇を、奪うように塞いだ。
「っ……」
くちゅっと、水音をワザとたてて舌を絡めてやると、求める様に首に腕を絡めてきた。
真面目そうなわりに、結構大胆なヤツだな。これは調教し甲斐があるかも――
「来いよ。もっと可愛がってやるからさ」
濡れた柔らかい唇を親指で拭ってやったら、嬉しそうな顔して頷いた一年。
次々と相手が変わる、飽きることのない恋愛ごっこ。気になった相手だろうが向こうからやって来た男子だろうが、女子だろうが先生だろうが。
自分の欲望を満たせば、それで終了。飽きたらそこまで。はい、次へ――このゲームは、ずっと続けられるものだと思っていた。なのに運命は俺を一気に変えていく。
下駄箱で靴を履き替え、外に出ようとした瞬間だった。それまで普通に息をしていたのに、胸の痛みを認識してから吸っても吸っても、一向に空気が体に取り入れられない――
あまりの苦しさでその場に倒れると、一年が慌てて駆け寄ってきた。
「先輩、大丈夫ですか? しっかりしてください!」
答えたいのに答えられず、口をパクパクさせるのが精一杯だった。頭の奥が痺れてきて、ふっと意識がなくなる。
「先輩っ、先輩!!」
泣き出す一年の声だけが、遠くから耳に聞こえてきた。
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