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Love too late:偽りの恋(太郎目線)3
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朝もやのかかる中ぼんやりと歩いていて、ふと思い出す。小学五年生になる、年の離れた妹が言っていた。
「風邪を引いて周防先生に診てもらったら、ちょちょいのちょいって、魔法で治してもらったの。すごいお医者様なんだよ」
風邪をどうやって治したのかは不明だけど、とにかく治ったっていうんだから、すごい技を使ったのかもしれない。
「――探してみる価値、あるかもしれないな」
こうして俺は、周防と名のつく病院を、スマホで検索しながら探してみた。
そして探し歩いた先に『周防小児科医院』があったのだが。考えたら小学生は、小児科なんだよな。俺のような高校生、診てくれるんだろうか?
しかも――
「午後から休診ってそっか……土曜だったもんな」
とにかく俺は患者なんだ、出待ちしてやれ! そんな意気込みだけで待つことにした。
途中親から、連絡が入ったけど――
「自分で信頼する医者を探したから、そこで治療する」
なぁんて言い放ち、電話を切ってやる。自分の人生は自分で決めたい、だって俺のものなんだから。
そんな決意を新たに、右手の拳を強く握りしめたとき、その人は突然現れた。
角から出てきたその人は、暗い色の茶髪を風になびかせ、綺麗な顔を今にも泣き出しそうな表情で、電話をしながらこちらに向かって歩いてくる。
右目尻にある泣きボクロが、すっげーセクシーだ。感じさせて泣かせてやったら、もっと綺麗に見えるかも。
そんなことを考えつつ視線を飛ばし続けたら、やっとこっちを見、眉根を寄せる。
その綺麗な顔を、もっと近くで拝んでみたい――そんな軽い気持ちで、ゆっくりと近づいてみた。やがて向かい合ったとき、悲壮な眼差しが俺を捕らえる。
やっぱ綺麗――
「そんな寂しそうな顔して、泣かないで?」
この人の笑ったところを見てみたい。
そう思いながら、右目にある泣きボクロに、そっとキスをしてあげた。
「ギャッ!?」
ありえない悲鳴をあげ、思いっきり平手打ちを食らう。ここまで見事に、スパーンと叩かれたことがなかったため、直接受けたダメージが半端ない。
しゃがみ込んで、痛む頬を撫でさするしかない状態とか……
電話の相手は男からだった。キスをしたとき声が、漏れ聞こえてきたから分かったのだが。別れ話でもしていたんだろうか?
「……大丈夫だ、ちょっとしたアクシデントだから。人の心配よりも自分の心配しろよ。ちゃんと寝ておけ!」
強い口調で言い放ち、さっさと電話を切る。そして座り込んでる俺を、軽蔑した視線で睨んできたけど、負けじと素直に思ったことを、口にしてやる。
「綺麗な顔して、やってくれること半端ないね、おにーさん」
「いきなり同性にあんなことされたら、誰だって拒否るだろ。殴られなかっただけあり難いと思え。俺はそっち側の人間じゃないよ。通ってる学校で相手捜しな」
誤魔化すように咳払いをし、落としたカバンを拾って汚れをはらう姿に、ほくそ笑みを浮かべてやった。
「ウソついてもバレバレだぜ。野郎からの電話で、泣きそうな顔してたじゃん」
ガキだからって、誤魔化せると思ったら大間違いだ。それとついでに――
「ところで聞きたいことがあってさ。そこにある周防小児科医院って、イイ感じ?」
俺の言葉に、猜疑心を含んだ眼差しで見つめてくる。
「知り合いの子どもが掛かりたいのか?」
「いいや、俺が掛かりたい」
ニコニコしながら言ってやると、あからさまにイヤそうな表情を浮かべた。
「高校生ならもう、普通に内科に通える年齢だ。悪いがそっちにまわってくれ」
――このセリフって、まさか!
「もしかしてアンタが、周防 武?」
「そうだけど。どう見たってお前、病人には見えないツラしてるよね」
「名医だって聞いたから、てっきりじいさんだと思ってた。綺麗な先生でラッキー」
「俺の話を聞いてなかったのか。だったらまずは、耳鼻科に掛かったらどうだ?」
ケッと舌打ちしたろ、心の中で! 何となく分かったぞ。
「待ってくれって! 俺、本当に病気なんだよ、不治の病なんだ!」
ちょっと細みな体にすがり付いたら、眉間に深いシワを寄せて、不快を示すようにため息をつかれた。
「不治の病なら尚更、ウチじゃあ診れない。他所をあたってくれ」
「アンタじゃなきゃダメなんだって」
「俺は町のお医者さん的な小児科医なんだ。重病人は診られない」
――重病人……今の俺にピッタリな言葉じゃないか。
「ああ、そうだよ、重病人だわ。アンタに恋をした、一目惚れだから」
最期に恋をするなら、目の前にいる綺麗なこの人がいい――これから俺は、アンタをもっと好きになる。睨まれていてもドキドキと高鳴る、この胸の音を聞かせてやりたい。
「大人をからかうのも、いい加減にしろっ!」
容赦なく頭をグーで殴られた。
「いって~……からかってなんかいないのに」
「お前は病人じゃない。ただの変態クズ野郎だ、もう顔を見せるなよ」
変態クズ野郎と罵られても、絶対に諦めない。病人として出逢ったからこそ、運命を感じた。きっと運命が、俺たちを引き寄せたんだ!
俺の前を去って行く冷たい背中に向かって、いろいろ考えてるとタイミングよく、自然気胸の発作が起きる。
医者として、病人を見過ごすことは出来ないだろう。俺はそれを使って、アンタの傍にいてやる。そしてありとあらゆる手を使って、落していってやろうじゃないか。
偽りじゃない、本当の恋がしてみたい。ほんの一瞬でもいい、傍に居られた証を――アンタに、俺の愛をくれてやる。消えることの無いキズとして。
本気で怒りながら俺を診察するタケシ先生の顔を見つめ、本当の愛についてぼんやりと考えた。
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