18 / 126
Love too late:防戦
くつろぐことの出来る自宅にいるのに、まったく気が抜けない――ギラギラした目で見つめてくる太郎の視線が、俺を欲しいと言ってるからなんだけど。
とにかく今夜は安心して寝られるよう、遅めに薬を渡した。
目の前で薬を飲み干す確認をし、布団に入ってくるなとしつこく念押しして、一日の疲れをこれでもかと体に引きずりながら、よいしょっとベッドに横になる。
「どうやって頑固な太郎に、治療を受けさせればいいんだか」
額に手をやり、いろいろ考えても思いつかない。医者として、俺の中にある使命感――
早めに手を打ったほうが、太郎のためにもいいはずなんだ。それだけで生存率が、ぐんと上がるんだし。
いっそのこと、この身を提供……
「――って、無理無理っ!」
そこまでしてやる、義理もなければ愛情もない。迷案ですら思いつかなくて、軽い頭痛を抱えながら、何とか就寝した。寝入りばながこんなだったので、疲れが相当溜まっていたのだろう。目覚まし時計が鳴るまで、しっかりと眠ることが出来たのに。
「ん~、目覚ましマジ、うっせー……」
またか――
背中に伝わってくる、あたたかい太郎の存在。目覚ましの音を綺麗にかき消す声に、ピキンと固まるしかなかった。
「コラッ! 何でまた、勝手に入り込んでるんだよ!」
(何もされてないのが、せめてもの救いだ)
慌てて起き上がり、自分の肩を抱きながらベッドの隅に移動して、しっかりと距離をとる。
「俺の定位置っていうか、居場所みたいな感じだから」
顔を思いっきり引きつらせる俺に、じりじりと這いつくばって、にじり寄ってきた。
「ふざけんな! 何が定位置だ……」
さぁここで、運命の選択だ。やってくる太郎に――
1ぶん殴る
2引っ叩く
3蹴っ飛ばす
4黙って押し倒される
まず4はあり得ない、阻止することが優先だから。
とりあえず手っ取り早く右手を振りかぶって、思いきりぶん殴ろうとしたら、簡単に腕をとられてしまい、ぐいっと体を引き寄せられてしまった。
振り上げた腕の勢いも見事に加算されていたので、拒否る間もなく太郎の体に向かって、バカみたいに自ら倒れこんでしまう。
――ヤバイっ!!
肩をすくめながらぎゅっと両目をつぶったとき、右目尻に柔らかい何かが、そっと触れた。そして、耳に聞こえるクスクスという笑い声……完全にバカにされている。
「おはよ、タケシ先生。寝顔も可愛かったけど、寝癖つけたまま怒ってる姿も、何気にさいこーだよ」
どうしてくれよう、ひしひしと沸き上がるこの怒り――
「俺だけがこの姿を見られるのって、結構嬉しいんだ」
耳元で甘く囁き、一瞬顔を離してから、何故か角度をつけてまた迫ってきた。そんな太郎に迷うことなく、両手で頬を挟み込み、勢いをつけてうりゃーっと頭突きをしてやる。
「痛っ! なんちゅー硬い頭してんだよ、ガチンっていったぞ」
「朝っぱらから、騒々しいんだよお前は。どんなに甘い言葉を言っても、俺には通用しないからな」
「……何で?」
恨めしそうな顔して、頭をさすりながら聞いてきた。
「甘いものが好きじゃないからだ。聞いてるだけでも胸やけがする」
眉間にシワを寄せ、心底嫌そうに言ったのに、何故かゲラゲラと笑い出す。
「だったら、耐性をつければいいだけの話じゃん。食い続けたらいつかは、胸やけもしなくなるって」
「医者の不養生と、他人に言われたくないんでね。無茶はしない主義なんだ。悪いが俺のことは、さっさと諦めろ」
冷たく言い放ち太郎を残して、寝室をあとにした。朝から既に疲労困憊だ――
洗面所で顔を洗い、鏡に映る自分を見る。頭頂部の寝癖が、ぴんとアンテナのように立っていて、物悲しさをこれでもかと引き立たせていた。
ともだちにシェアしよう!