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Love too late:防戦3

*** 「自分のペースを乱されるのって、ホント辛いわ……」  太郎の存在や視線を華麗にスルー出来ればいいんだけど、病気の兼ね合いもあってそうはいかず、いつも通り仕事が出来なかった。  しかも夕方にメールで送られてきた、太郎の血液検査の結果。 「予想してた値、やっぱ出ちゃったね。サイログロブリン抗体、考えてた以上に結構高いなぁ……」  病気の疑惑が、確信に変わった瞬間。あとは細胞を摂取してどのパターンなのか、詳しく検査すれば、これからの治療方針がスムーズに立てられる――  ふぅとため息をついてパソコンと睨めっこしていたら、聞き慣れた声が耳に届いた。 「ちーっす、土曜はどうもな」  いつものように、爽やかな笑顔で桃瀬が診察室に入ってきた。 「ももちん……随分顔色も良くなって、元気になったみたいだね」  土曜のときとは、雲泥の差だ。 「そういうお前は、大丈夫なのかって顔してるぞ。今日、忙しかったのか?」  眉間にシワを寄せ、俺の額に手をそっと当てる。何となく気恥ずかしくて視線を伏せ、顎を引いてしまった。 「ちょっと疲れが溜まっただけ。それよりもどうしたの? 遠足に行くのにちょうど良さそうな、大きなリュックを持ってきて」  自分の不調から話題転換すべく、目に映ったものを指摘してみると、思い出しましたという表情を浮かべる。 「おおっ、そうそう。病院前でいきなり、女のコに手渡されたんだ。何でも、太郎の服が入ってるらしいぞ」  「何だって!? その女のコは、どこに行ったの?」  ――それって、もしかして太郎の……  思わず桃瀬の腕に、ぎゅっとしがみついてしまった。 「悪い、帰っちゃった。名前を聞いてみたんだが、太郎の妹って名乗りやがってさ」 「そう……どんな女のコだった?」 「ちょっと待ってろよ、こんな感じだった」  手に持っていたリュックをそっと足元に置き、ポケットに入れてるメモ帳をガサガサ取り出して、手早くサラサラと何かを描きだした。  ああ、はじまった――桃瀬の得意技。どれも同じ顔になるという、不気味なイラスト…… 「ももちん……期待はしてないから」 「何だよ周防、人が真面目に描いてやってるのに。ほらよ、出来たぞ♪」  押し付けるように渡されたメモ帳を見て、内心ため息をつき固まるしかない。 「――やっぱりね。進化してると期待しなくて、よかった」 「何言ってるんだ、すっげぇ似てるぞ」  俺の言葉に、桃瀬はムッとした。だってこの絵じゃ、しょうがないだろ。頭と目が異常に大きい上に、手が長いのに足が極端に短くなっているこの絵は、どこから見ても人間に見えないのだから。 「太郎! ちょっとおいで!」  診察室から廊下に顔を出して、太郎を呼びつける。俺は肩をすくめながら診察室の椅子に戻ったら、ひょっこりと顔を出した。 「わんわん、用事は何ですか~?」  寝ぼけ(まなこ)で現れた太郎が、鋭い視線で桃瀬を見つめた。突然現れたイケメンに、面白くない様子だ。 「タケシ先生……誰、この人?」 「俺の親友の桃瀬。あのさ、この顔に見覚えある?」  手渡したメモ帳を差し出し太郎に見せると、腹を抱えて笑いだした。 「なっ何だよ、これ! こんな人間いたら今頃、テレビに出まくってるだろ! 宇宙人じゃないか!!」 「悪いが太郎、俺はこの絵を見てピンときたんだ。多分このコはお前の妹だ。よく見ると、どことなく雰囲気が似ているからな」  長年桃瀬と付き合って、ずっと絵を見ているから、想像力が鍛えられたというか。  太郎は震える手でメモ帳を持ち、呆れた顔して俺を見るが、すっごい勘違いをしてるだろ。  無言ですっと、桃瀬を指差してやった。 「この人が描いたのか!? 何か意外……」  桃瀬がゲーッという表情を浮かべた太郎を、ショックな顔して縋るように俺を見つめる。雲行きが悪そうな居心地を感じたので、ここは華麗に話題転換した方がよさそうだ。 「紹介するね。コイツは病院前でわざわざ倒れてきた、面倒くさい患者なの。しかも自分の素性を、明かしてくれなくてさ。なので俺が適当に名前をつけたんだよ」  本当に面倒くさいヤツ。それをアピールすべく、丁寧な紹介をしてやった。 「周防、大丈夫なのか? 防犯上のこととか……いろいろさ」  俺の紹介に、いろいろ考えることがあったのだろう。心配そうな表情を浮かべ、わざわざ訊ねる様子に、思わず微笑んでしまう。  ――やっぱ優しいな、桃瀬は。  胸の中にじわりと、その優しさを噛みしめた。 「何とかね。ソイツまだ高校生だし、躾るのにちょっとだけてこずっているけど」 「……高校生だったのか」  意外そうな目をして太郎を見た桃瀬に、内心クスッと笑ってしまう。確かにコイツ、結構な老け顔だからな。

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