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Love too late:防戦4

「何だよその目は! ああ、どうせ俺は老け顔ですよ」  桃瀬と自分を比べるな。比べるレベルじゃないの、見ただけで分かるだろうよ。 「涼一くんが通っていた学校の、高等部の制服着ていたよ。ほら太郎、着替えだってさ」  呆れながら、妹が持ってきたリュックを太郎に手渡すと、その腕で俺の体を荷物ごと引き寄せ、いきなりぎゅっとホールドされてしまった。 「おい、コラ! いきなり何するんだっ、離しやがれ!」 「ええっ!?」  これは絶対、桃瀬に勘違いされる! それだけは、何としても阻止せねば。 「……お前たち、デキてるのか?」 「デキでるワケないでしょ! 誤解しないでよ!」  激しく否定しているのに、俺らを見つめる視線が何故かあたたかく感じるのは、気のせいなんかじゃない。 「周防、そんな激しく否定しなくていいって。俺ら親友だろ、隠してくれるなよ」  隠すも隠さないも、俺はこんなヤツのこと好きなんかじゃないのに――桃瀬の鈍感! どうしてくれよう、この微妙すぎる心情…… 「んもうぅ! 本当に違うんだって! だって俺は――っ」  怒鳴りながら声に出して、くっと息を飲んだ。  自分の体にキツく巻きついた腕を、必死になって解きながら、言いかけてしまった無意味な言葉に、俯きながらきゅっと下唇を噛む。 「……うん?」  そんな俺の様子に小首を傾げて、不思議顔をする桃瀬。自分の気持ちを、言えるわけがない。親友の桃瀬に伝えても、どうせ無駄なんだから―― 「どうした?」  桃瀬の視線をじと目でチラッと見てから、太郎の手の甲を容赦なく、力任せにぎゅぅっとつねりあげた。正直、これは腹いせになるだろう。 「いって~!!」 「とにかく頼むからももちん、勘違いしないでよ。コイツはただの、面倒くさい居候なんだから!」  肩をすくめながら桃瀬に伝わるように説明する俺の横で、悔しそうにこれでもかと、恨めしそうな表情を浮かべる太郎。 「もう一緒に寝てる間柄なのに、そんな激しく否定しなくてもいいじゃん」  どうして必死に否定してる傍から、勘違いされることばかり、わざわざ言ってくるかな! 今朝から何度目だろうか、怒りで血管がブチ切れそうだ。 「いい加減にしろ太郎! 余計なことを言うなよ! 桃瀬が絶対に誤解するだろ!」  ――頼むからお前との仲を、桃瀬に怪しまれたくない。 「だって、一緒に寝てるのは事実だろ」 (ガーッ! このクソガキ!) 「だけど、何もヤってないし起こってもいない! そして勝手に布団に忍び込んでくる、お前が全部悪い!」  ぜーぜー息を切らして、太郎を怒る俺の肩を、桃瀬はまぁまぁと宥めるように叩いた。 「そんなに叱るなって。太郎はお前のことが好きなんだから、しょうがないだろ。見てるだけで分かるぞ」 「なっ……!?」 「そうだよな、太郎?」  普段読みを外す桃瀬が、太郎の心情を見事読み取ったことに、心底驚いてしまった。 「ああ、その通りだよ」  肯定した太郎の言葉に、どこか嬉しそうな顔をする。  ……絶対に、勘違いしているだろうな。こんなヤツとは、両想いなんかじゃなにのに。あまりのショックで、さっきから言葉が出ないよ。  そんな俺の傍に来て、肩に置かれてる桃瀬の手を、叩くように払い除ける太郎。 「俺はタケシ先生のこと、すっげぇ好きだし。誰にも渡すつもりはないから」 「そうか。周防のこと、大事に想ってやってくれよな。俺はただの親友だから、絶対に捕ったりしないぞ」  そうだよ、ただの親友だ。それ以上でも以下でもない――  桃瀬の言葉に居たたまれなくて、俯きながらぎゅっと胸を押さえたら、そんな俺を背中で隠すように、太郎が前に出てくれた。 「……どうだかな」 「俺、恋人いるし同棲もしてる。だから安心してくれ」 「周防先生、もう患者さん見えないので、病院を閉めましたよ」  ベテラン看護師の村上さんが診察室に入ってきて、俺たちを見やる。 「こんにちは、村上さん」 「なぁんかここ、よくない雰囲気が漂ってるわね。太郎ちゃん、ケンカしたんでしょ?」  ――ダテに年を食ってないな。こういう雰囲気を読み取る能力が長けてるから、しっかり仕事にも生かされているわけだし。 「してねぇし……あだっ!」  相変わらず口の減らない太郎を叱るべく、後ろから頭を殴ってやった。 「すみません村上さん。病院閉めてくれて、有り難うございます」 「いいのよ、そんなの。いつもの晩御飯、冷蔵庫に入れておいたから、太郎ちゃんとふたりで食べてね。たくさん作ったから、桃瀬さんが持っていっても大丈夫よ」  村上さんの優しい一言で場の雰囲気が一変、いつもの穏やかな診察室になる。俺はこっそりと深いため息をついた。 「有り難うございます。でも恋人が大量にワケの分からない物を作ってると思うので、今回は遠慮しますね」 (でたよ、桃瀬のさりげない恋人自慢だ) 「ワケの分からない物?」 「えっと、見た目がいろいろ問題なんですが、味は大丈夫みたいな」 「あらやだ、ちゃっかり桃瀬さんってば恋人の自慢してくれちゃって。ご馳走様です」 「いえ、そんなつもりは――」 「そんなつもりはなくても、いっつも恋人自慢、デレデレしながらしているよね、ももちんってば」  冷たく言い放ち、深いため息をつきながらドカッと椅子に座って、パソコンの電源を切る。 「太郎ちゃん、あまりワガママ言って周防先生を困らせたらダメよ。それじゃあお先に失礼しますね」  ナイスな釘を刺して、無駄に大きい太郎の頭を優しく撫でてから、村上さんは帰って行った。 「じゃあ、俺も帰るから」  村上さんの後を追うように、帰って行った桃瀬。あの含み笑いは、間違いなく誤解をしたままに違いない。 「桃瀬のバカ――」  机の上で頭を抱え、ぼやくように呟くしかなかった。  さっきまで騒がしかったのに、静寂が診察室に訪れる。 「……俺と出逢ったとき、タケシ先生が電話してた相手、アイツなんだろ?」  その静寂を太郎が壊した。ショックが大きくて何も考えたくないっていうのに、ホント面倒くさい。 「だったら、何だって言うんだ」  太郎の顔を視線だけでギロリと睨みながら、吐き捨てるように言ってやる。  お前のせいで桃瀬に誤解されてしまった――こんなヤツと誤解されるくらいなら、村上さんと不倫してるって思われた方が、どんなにいいか。 「あのときと同じ、悲しそうな目をしてるから」  太郎に背を向けて頭を抱えてるのに、どうやって俺の顔が見れるっていうんだ。ふざけんな、マジでムカつく…… 「白衣を着て、医者っていう格好してるのに今のタケシ先生、何処から見ても患者みたいだ」  早朝から振り回されて、もうクタクタなんだよ。患者になって当然だ。 「誰のせいで、こんなになったと思ってるんだ。いい加減にし――」  いつものようにキツく叱ってやろうと口を開いたら、座ってる俺の体を後ろから、ぎゅっと強く抱きしめてきた太郎。

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