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Love too late:防戦4

「おい、コラ! いきなりなにをするんだっ、放しやがれ!」 「ええっ!?」 (これは絶対、桃瀬に勘違いされる! それだけは、なんとしても阻止せねば) 「……周防とコイツ、もしかしてデキてるのか?」 「デキてるワケないでしょ! 誤解しないでよ!」  激しく否定しているのに、俺らを見つめる桃瀬の視線があたたかく感じるのは、気のせいなんかじゃない。 「またまたぁ。周防ってば、そんなふうに激しく否定しなくてもいいって。俺ら親友だろ、隠してくれるなよ」  隠すも隠さないも、俺はこんなヤツのこと好きなんかじゃないのに――桃瀬の鈍感! どうしてくれよう、この微妙すぎる心情。 「んもうぅ! 本当に違うんだって! だって俺は……くっ」  怒鳴りながら息を飲む。自分の気持ちを告げられないことにイライラしつつ、体にキツく巻きついた太郎の腕を、必死になって振りほどいた。 「周防?」  そんな俺の様子に小首を傾げて、不思議顔をする桃瀬。恋人のいる彼に、自分の気持ちを言えるわけがない。伝えても、どうせ無駄なんだから。 「どうした?」  桃瀬の視線をじと目でチラッと見てから、傍にいる太郎の手の甲を容赦なく、力まかせにぎゅぅっとつねりあげた。正直、これは腹いせになる。 「いって~!!」 「とにかく頼むからももちん、勘違いしないでよ。コイツはただの病人で、面倒くさい居候なんだから!」  肩をすくめながら桃瀬に伝わるように説明する俺の横で、太郎は悔しそうに、これでもかと恨めしそうな表情を浮かべる。 「タケシ先生とは一緒に寝てる間柄なのに、そんなに激しく否定しなくてもいいじゃん」  どうして必死に否定してる傍から、勘違いされることばかり、わざわざ言うかな! 今朝から何度目だろうか、怒りで血管がブチ切れそう。 「いい加減にしろ太郎! 余計なことを言うなよ! 桃瀬が絶対に誤解するだろ!」  ――頼むからおまえとの仲を、桃瀬に怪しまれたくない。 「だって、一緒に寝てるのは事実だろ」 (ガーッ! このクソガキ!) 「だけど、なにもヤってないし起こってもいない! そして勝手に布団に忍び込んでくる、おまえが全部悪い!」  ぜーぜー息を切らして太郎を怒る俺の肩を、桃瀬はまぁまぁと宥めるように叩いた。 「そんなに叱るなって。太郎はおまえのことが好きなんだから、しょうがないだろ。見てるだけでわかるぞ」 「なっ!?」 「そうだよな、太郎?」  恋愛ごとについて普段読みを外す桃瀬が、太郎の心情を見事に読み取ったことに、心底驚いてしまった。 「ああ、そのとおりだよ」  肯定した太郎の言葉に、桃瀬はどこか嬉しそうな顔をする。 (……桃瀬は絶対に勘違いしているだろうな。こんなヤツとは、両想いなんかじゃないのに。あまりのショックで、さっきから言葉が出ない)  微妙な心情を感じてる俺の肩に置かれてる桃瀬の手を、太郎は叩くように払い除ける。 「俺はタケシ先生のこと、すっげぇ好きだし。誰にも渡すつもりはないから」 「そうか。周防のこと、大事に想ってやってくれよな。俺はただの親友だから、絶対に捕ったりしないぞ」  そうだよ、ただの親友だ。それ以上でも以下でもない――。  桃瀬の言葉に居たたまれなくて、俯きながらぎゅっと胸を押さえたら、そんな俺を背中で隠すように、太郎が前に出てくれた。 「……どうだかな」 「俺、恋人がいるし同棲もしてる。だから安心してくれ」 「周防先生、もう患者さんは見えないので、病院を閉めましたよ」  ベテラン看護師の村上さんが診察室に入り、俺たちを眺めた。桃瀬がすかさず右手を挙げて、爽やかに挨拶する。 「こんばんは、村上さん」 「桃瀬さんこんばんは。あらあら、なぁんかここ、よくない雰囲気が漂ってるわね。太郎ちゃん、ケンカしたんでしょ?」 (――ダテに年を食ってないな。こういう雰囲気を読み取る能力が長けてるから、仕事にも生かされているわけだし) 「してねぇし……あだっ!」  相変わらず口の減らない太郎を叱るべく、後ろから頭を殴ってやった。

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