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Love too late:防戦5

「何であんな無神経なヤツ、好きでいられるんだよ」  まずは体に回された腕を振り解いて、的確な返事をしなければ。そう思ってるのに、自分の腕に力が入らなくて、言葉がまったくもって出てこない。  何故だか想いが、ふっと空回りした。本当に、何で好きでい続けられるんだろ。  それはきっと桃瀬だからだ――アイツの傍にいるのが心地よくて、無条件に優しくしてくれるから……でもその優しさは、親友だからなのにな。 「友達としか見られてないのに……タケシ先生、あんなに辛そうな顔させられてるのに、どうして諦めないんだよ」  そうか……辛そうな顔、アイツの前で俺はしているのか。 「俺は貪欲なんだ、しょうがないだろ。それよりも、お前がさっさと諦めろ。どんなに想っても無駄なんだから」 「……タケシ先生、泣くな」 「は……?」 「ほら――」  腕に回してる右手で、乱暴に俺の頬を触って、それを見せてくれる。濡れた太郎の指先が、涙を流していることを示していた。  ――何で泣いてるんだ? ワケが分かんない。この手で泣いたことなんて、最近はなかったのに。 「さっさと諦めろ、あんな鈍感なヤツ。俺なら泣かせるようなこと、絶対にさせないし」  その言葉が胸を締めつけらるように伝わってきて、痛みに耐えるべく奥歯をぎゅっと噛みしめた。 (諦められたら、とっくの昔にやっているさ)  ケッと思いながら眉根を寄せると、右目尻にそっと唇を押し付けてきた。 「タケシ先生の右側、好きだよ――」  優しく告げられた告白のセリフだったが、心にはまったく響かない。やる気がすべて失せた今、太郎にされるがままの自分。辛すぎて、現実を受け入れられないから。  ――何を言われてもされても、気持ちは無機質なまま―― 「だってこの泣きボクロがあるし、あとちょっとだけ癖のある、襟足の髪の毛」  笑いながら指摘した、俺の襟足の髪の毛を引っ張ってから、くるくると指先で弄ぶ。 「タケシ先生、何かを考え込むとき無意識にこれを直そうと、首に手を当ててるんだ。その仕草が結構、可愛くて好きなんだよね」 「よく、見てるのな」  そんなこと、誰にも言われたことない。 「見てるに決まってるだろ。一日見てても飽きない自信、俺はあるんだけど。だけどもう、泣き顔はご免だ」  体に回されていた腕が不意に外されて、ギシッと椅子に座る音がした。横を見ると太郎が患者用の椅子に座って、真剣な眼差しで俺をじっと眺める。 「笑えって言ってもタケシ先生ことだ、意地でも笑わないだろ。だからさ――」  長い腕で肩を抱き寄せ、勢いよく俺の頭を、痛いくらいに太郎の胸に押しつけた。 「辛いときは、思いっきり泣けばいいんじゃね? 俺、見ないようにするし」 「何、言って……」 「分かるから。どんなに想っても、届かないものがあるっていうの。今の俺がそうだろ? 同じだから分かるんだって」  押し退けようとした手が、ブルブル震えてしまう。離れなければと頭では分かっているのに、涙がどんどん溢れてきて、瞳から流れ落ちてしまった。 「っ――うっ……」  桃瀬に誤解されたことや、太郎の病気のこととか、自分のままならない想いなんかがごちゃ混ぜになって、すべてが涙になっていく。  気がついたら俺は太郎にすがり付いて、わんわん声を上げて泣いてしまっていた。そんな俺の背中を労わるように、優しく何度も撫で擦る。  いつもは煩いくらいお喋りのくせに、このときは何も言わず、俺を慰めるように、ずっと傍にいた。  キズついた今だからこそ、その優しさやあたたかさが、無上に体に沁みこむ――

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