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Love too late:防戦10
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今日も散々な一日だった。何が散々って太郎が来てからというもの、自分のペースを乱されっぱなしだから。
「こっちは大人の対応して折れてやっているというのに、ガキという特権をこれでもかと振りかざしやがって」
玄関でキスされたあと速攻でシャワーを浴び、何度も何度も顔を激しく拭いまくった。ガシガシと拭っても、キスされた事実は悲しいことに消えないけれど、拭わずにはいられない。
ムカつく気持ちをこれでもかと引きずり、だらだらと浴室から出てから、台所にてビール缶を開けてがぶがぶと一気呑みし、太郎と顔を合わせることなく、そそくさと寝室に移動した。
「俺は医者、俺は医者……あんな最低なヤツでも、助けなきゃならない義務があるんだ」
もう、思い込み作戦である。義務や責任を自ら、えいやっと背負い込み、何とかして太郎を治療させるべく、自分を騙しこむことにした。
「まずは俺の中にある基準を、何とかして崩壊させなければ!」
基準を下げれば、多少なりとも太郎が恰好よく見えるかもしれない。そこから恋に発展とはいかなくても、今までより太郎のことを思いやり、優しくすることが出来れば、それなりの雰囲気になるだろう。
それを恋と勘違いして、太郎が生きてやろうと考えてくれたら、それこそしめたものだ。
「俺の基準というか理想が、見目麗しいイケメン桃瀬だからな。何人かかっても超えられないから、難題になっているんだ」
目を閉じてベッドに体を投げ出し、瞼の裏にぼんやりと思い出す。――大好きな桃瀬の姿――
そこら辺にいるヤツが、病院で使う物品に見えてしまうレベル。
しかも俺って、頼られるより頼りたいタイプでソイツの優しさに、そっと包まれていたいんだ。桃瀬みたく面倒見のいいヤツなら、もう喜んでついて行く……って。
「これを太郎に求める時点で、かなり無理な気がしてきた」
さりげなく寄り添ってくれるものの、肝心なトコでポイッと放り出されるから。
(ここは大人として、俺が我慢すればいいだけの話なのか?)
幸先不安な展開に、昨日同様に頭痛がしてきた。
無駄なことを、ぐるぐる考えている内に、疲れてきて睡魔に襲われた――
寝入りばながこんなだったので、何だか変な夢を見る。薄暗がりの中、桃瀬が俺に寄り添って来たかと思ったら、そっと優しく頬に触れてきて……
『もっ、ももちん』
顔がすごく近くて、自然と心臓がバクバクする。自分の挙動を悟られないように、さりげなく視線をズラした。
『周防お前、クマが出来てるぞ。大丈夫なのか?』
『うん、いろいろ考えることがあってね。ちょっとだけ寝不足気味かも……』
『まったく――親友の俺の目を、簡単に誤魔化せると思ってるのか?』
心底呆れた顔して、優しく俺の頭を撫でてくれる。
『何、言ってるの。誤魔化してなんかいないってば』
『またまた。太郎と仲良くヤってるんだろ。胸元から、ちゃっかりと見えてるぞ、キスマーク』
『なっ!? だってまだ、何も――』
信じられないことを指摘され、慌てふためくしかない。
グラグラする心を抱えながら、ワイシャツのボタンを数個外してみると、赤い痕が残されているではないか。
俺いつの間に、太郎とそんな関係に――
『周防の幸せそうな顔、間近で見られて嬉しいぞ』
桃瀬のKYなセリフに、涙がじわりと滲んできた。俺はこんなに、お前のことが好きなのに、どうして――
「くっ……」
夢の中で呟いた自分のうめき声で、ふっと目が覚める。
――これは悪夢だ――
そして受け入れたくない現実が、何故だかもうひとつ。背中に感じる太郎のぬくもり……また勝手に、人の布団に潜り込みやがって!
いつものように怒鳴ろうと息を吸い込んで、ハッと我に返った。
「はぁ……」
(ヤバイヤバイ。悪夢のせいで、昨日の誓いが無になるトコだった)
太郎にはなるべく、優しく接しなければいけないんだ。ここは何とか我慢して、大目に見てやらないと。それにただ寄り添って、寝ているだけじゃないか。小さい子どもと同じだろうよ。
「ん……?」
体に片腕を回して、いつも通りすやすや寝ているんだと思っていたのだが――(朝から怒りすぎて、状況把握が出来てません)
肌の上に直で感じる、温かいモノは一体? 胸元に何かあるような……ぞぉ~~~~~!
「おいコラッ! 勝手にパジャマの裾から、手を突っ込むな! ここから出て行け!!」
「……え~、別にいいじゃん。減るもんじゃないんだし」
俺の言葉をしっかり無視し、大胆に撫で擦ってきた。
「テメェ……」
かくて見事ブチ切れたため、昨日の誓いをすっかり忘れて、太郎を思いっきり蹴飛ばし、寝室からさっさと追い出してしまった。
平然と、こんなことをするヤツである。俺の中では低評価なのに、職場で太郎の評価がうなぎ上りになることを、このときは知らずにいた。
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