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Love too late:防戦11
***
ウチの病院には二十代・三十代・四十代という、各年代の看護師が勤めている。その職員の中で、太郎のことにいち早く反応したのが、一番若い看護師のコだった。
午前中の患者に一区切りがついた時間帯に、お茶を持ってきてくれた二十代の看護師。
「今日も混みましたね、どうぞ」
「そうだね。いつもありがと」
労いの言葉に笑顔で返し、淹れてくれた温かいお茶をすする。その、ほっとした瞬間だった。
「太郎くん、カッコイイですよね」
突然告げられた若い看護師のセリフに、飲み込んだお茶を、思いっきり吹き出しそうになる。
(――もしかして何か、薬でも盛られたのか?)
「周防先生のカッコよさには負けますけど、自分がもう少し若かったら、太郎くんにチャレンジしちゃうのになって」
「そんなにアイツ、カッコイイかな?」
「同性だから分からないんですよ。十分に、カッコよさを醸してますって。若くて、爽やかな感じがいいなぁ」
うっとりする表情を、呆れながら見つめるしかない。カッコよさが醸されてるって、どこら辺からだろ? もしかすると、カビや何かの危ない菌が、ふわふわって醸されているのかも?
「でもさ、ももちんと比べたら――」
「ダメダメッ! 何言ってるんですか! 桃瀬さんは別格なんです。太郎くんには太郎くんなりの良さが、彼の中にあるんです!」
太郎の良さって、何だろう?
「俺、サッパリ分からないんだけど」
比べちゃいけないのは分かっていても、比べずにいられないのは、やはり恋心ゆえ。
「太郎くん高校生なのに、しっかりしていますよ。私たちの受け答えにも、ハキハキと対応して、ちゃんと出来ていますし。素直に、いいコだなって思います」
持っていたお盆を胸の前にぎゅっと抱きしめ、夢見る乙女みたいな顔して、わざわざ教えてくれた。
「周防先生、患者さん来たら声をかけるんで、それまでゆっくりしていて下さいね」
「分かった、ゆっくりさせてもらうわ……」
ハテナ顔の俺を残し、ウキウキしながら診察室から出て行った二十代の看護師。
これで終わるかと思いきや――別の日に三十代の看護師から、太郎のことを聞くことになる。
「いいコですね、太郎くん」
寝室に鍵をつけていないため、毎日奇襲攻撃を受け、睡眠不足気味の俺に追い討ちをかけるような言葉。
「……どこが?」
「絶妙なタイミングで、私たちの仕事を手伝ってくれるんですよ。力仕事とか高いところにある物を、素早くさっと取ってくれたり。それがさりげなくて、気が利いているんです」
あの俺、言ったよね。一応アイツ病人で、安静にしていなきゃダメって。なのに太郎のヤツは、ちょこまかと地味に動いているんだ。
「自分がもう少し若くて結婚していなかったら、思いきってアタックしちゃうのに」
(でたよ、太郎と付き合いたい宣言。昨日から一体、どうなってるんだ?)
「そんなに太郎って、魅力的かな?」
「そうですね……う~んと、ニッコリ笑った顔が何とも言えないです」
思い出し笑いをし、細い肩を竦めながら診察室を出て行った三十代の看護師。
何度も太郎の笑顔を見ているけど、俺としては正直、サルがニンマリと笑った顔にしか見えない。
「周防先生、患者さんいないから、後片付けを進めちゃっていいですか?」
頭を抱えているトコに、四十代の看護師の村上さんがやって来た。
「そうなんだ。さっさと片付けていいよ」
「毎日毎日、太郎ちゃんの面倒を見て、結構疲れているんでしょ?」
俺の様子に、すべてを悟ってくれたのかな。もしかして、すっごく老け込んだりしてる? 思わず、スリスリと頬を触ってしまった。
「はぁ、まあ。いろいろアイツは、やらかしてくれるので」
「私たちには、本当に優しいですけどね。きっと、周防先生に甘えているのかも」
(アイツが俺に、甘えてるって――?)
「甘えられても俺としては、すっごく困るんだけど……」
「ふふふ。でも年の離れた弟が出来たみたいで手のかかる分、可愛いでしょ? 以前に比べると周防先生、随分と明るくなりましたよ」
――俺が明るくなった!?
「太郎ちゃんが来てから、病院の中も明るくなって、本当にいい雰囲気なんですよ。診察室から今度、待合室の方に顔を出せば分かりますからね」
おいおい、病院の中で一体、何が起きているというんだ。
診察室に引き篭もって、患者を診ているだけの自分。看護師たちが楽しそうに仕事をしているのは、どことなく伝わっていたけど、まさか患者の子どもまで!?
これはしっかり、確かめなければならないな――
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