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Love too late:揺れる想い5

 困り果てて、投げやりな言葉を吐き捨てると、ふぅんと頷く太郎。 「分かった。じゃあ病院からワセリン借りるけど……いいよな?」 「ワセリン?」 「だって、そういうことだろ。俺はそういう風にタケシ先生の気持ち、受け取ったから」 「ちょっ……」  俺が突っ込む前に、素早く布団から抜け出て、寝室を出て行ってしまった。  これってもしかして、いきなりの展開なのでは―― 「おいおい、心の準備が出来ていないって……」  慌ててベッドから抜け出て、後ずさりをするしかない。俺が太郎にあんなことや、そんなことをされてしまう! 「あ、あぁ……あり得ない、絶対に無理っ!」  想像しただけで、手足がブルブルと震えた。まだ好きまでいってない、故に拒否るのは当然のことなれど。 「でも我慢すれば、太郎が治療を受けてくれるかもしれないんだ……」  何気なく窓の外を見ると黒い雲の隙間から、切った爪のような形をした細い三日月が、ちらちらと見え隠れした。それはまるで自分の心のようだと、思わずにはいられない。  まだ満ちてはいない形が、太郎のことを想っている分量に見えるから。 (――ほんのちょっとの好き)  胸元をぎゅっと握りしめたら、扉の開く音が耳に聞こえてくる。 「……おまたせ。あれ? 服、脱いで待っててくれなかったの?」 「何で、脱がなきゃならないんだ」 「――だって、さ」  扉を丁寧に閉めて、こっちにやって来る太郎を睨むと、意味深な笑みを浮かべながら、いきなり抱きついてきた。  まだ心の準備が――っ!? 「俺とHするの怖いの? すっげぇ震えてるけど」  胸の中が痛いくらいバクバク高鳴りすぎていて、どうしていいか分からない。 「こっ、怖いワケ、ないだろ。何、言って――」  震える俺の体をぎゅっと抱きしめて、後頭部を優しく何度も撫でてくれた。落ち着かせるように、ゆっくりと撫でる手のひらから伝わってくる温かさが、何とも言えない。 「大丈夫だから。気持ちよくしてあげるし、痛かったら止めてあげる」  聞いたことのない、胸に染み入るような太郎の声が、ふんわりと俺の中に響き渡った。そのお陰で震えていた体が、何故だかリラックスしていき、自然と震えが止まる。  太郎の胸の中がすごく温かくて、居心地が良いせいだ。  さっきまで空を照らしていた三日月が、かくれんぼするように雲の間に隠れて、室内を深い闇に落とす。 「なぁ、タケシ先生からキスしてよ」  俺の決意を確かめる言葉に、ゴクリと喉を鳴らしてしまった。 (もう逃げられない。コイツのために、思いきってやるしかないだろう) 「……どうなっても知らないからな」 「何それ。すごい技でも、披露してくれんの?」  鼻で笑ってバカにしてきたので、太郎の細い首に両腕を絡ませながら、グイッと強引に引き寄せてやる。 「どれだけ俺がお前を想っているか、これで分からせてやる……」  文句を言わせないよう太郎の唇にそっと、自分の唇を重ねた。  ほんのちょっとの好きを、どうやって表現すればいいのか。正直なところ分からなかった。だけど唇の中に忍んでいった舌を、待っていましたとばかりに素早く絡み捕られ、体に回されていた腕に、更に力を込めて抱きしめてくる。  仕掛けたのは俺なのに、何だかわざわざ捕まった気分。太郎の想いが、これでもかと伝わって――その想いがどんどん身体に流れ込んできて、三日月だった俺の気持ちをゆっくりと、満月へ形を変えていく。  満たされた想いが、コイツを好きだと自分で感じているのが不思議だった。全然好みのタイプじゃなかったはずなのに、太郎の宣言通り俺ってば洗脳されたのか?  それとも―― 「太郎……好きだ。もっと――」  自然に出てきた言葉で、気持ちを伝える俺へ応えるように、離れた唇が角度を変えて、再び激しく重ねられた。そして、ベッドに投げ出される。ぎゅっと抱きしめられ、深く愛される悦びに満ち震えてしまった。  その内に、どんどん熱くなって―― 「はぁ……あぁあ、んっ……」  それが甘い声となって、思わず出てしまった。  自分の声が恥ずかしくてぎゅっと手を噛むと、面白くなさそうな顔をした太郎に、それを外される。 「もっとタケシ先生の声、聞かせてよ。そんなにガマンしないでさ」  こんな鼻にかかった甘ったるい声、聞かせたくないし言いたくもない。  俺が首を横に振ると、苦笑いしながら両手を腰の辺りで固定させるべく握られてしまい、しっかりとホールドされてしまった。 「くっ……いきなりぃ、っ……んんっ……貪りすぎ、だっ」  敏感な部分に与えられる、直接的な快感に思わず、腰が何度も浮いてしまって。シーツを引っかくように、無駄に足をバタつかせてしまう。 「しょうがないだろ。ずっと欲しくて、堪らなかったんだからさ。タケシ先生の喘いでる色っぽい今の姿、見てるだけでも俺、イけそうな気がする」 「そんなもん、じっと見んな、よ。バカ……はぁ、あ、あっ……」  艶っぽい笑みを浮かべ見下ろしてくる太郎を、息を切らし喘ぎながら睨み付けてやる。 「もっと気持ちよく、してあげるから――」  口元に意味深な笑みを浮かべ妖しく笑った瞬間、俺の両足を持ち上げ、強引に腰を押し進めてきた。 「っ……くっ!?」  ぞくぞくっとした快感と不快感が同時に襲ってきて、目を白黒させるしかなかない。そんな微妙な表情を、浮かべることしか出来ないなんて。 「ひっ……くっ……」  今まで感じたことのない身体の違和感が正直、何とも言えなかった。 「うっ……太郎、苦しい…ぃ、んだけど……」 「大丈夫だから。安心してよ」  大丈夫って、一体……  微妙な表情を浮かべる俺に対し、一仕事を終えたように額の汗を拭い、見下ろしてくる余裕綽々の太郎。 「タケシ先生、可愛い」 「くっ、そうかい……」 「その顔、見てるだけで俺、もうメロメロなんだけど」 「ぅっ、頼むから、その……優しくしてくれ」  自分自身では、どうにもならないことにキツく眉根を寄せて、情けないことを言った俺を、柔らかく笑いながら顔を近づけてきて、右目尻にそっとキスを落した。 「分かってるって。大事にしてあげる、俺の愛しい人――」  言いながら俺の体が逃げないよう、両肩をぎゅっと掴む。 「うう、っ……くっ……」  やがて腰の角度を変えられたとき、違和感だらけだったのに突然、それが甘い衝撃に変わった。 「はあっ!? あぁ、あぁっ……んあっ!」 「タケシ先生、可愛いい――もっと感じてよ」  俺の様子が変わったのを察して、執拗に責める。  確かに、はじめはかなり辛かった。だけど太郎が自分の中に全部入っていて、生きている証拠みたいに感じることが出来た、それだけでも嬉しいというのに。 (これ以上俺を悦ばせて、どうするんだ!?)  そんな文句を、心の中で言ったのは覚えてる。だが記憶があるのはここまでで、あとは何も分からなくなってしまって……  次に目覚めたのは肌寒く感じた、ひとりきりのベッドの中だった。

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