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Love too late:恋するキモチ3

***  ホント、すっごく恥ずかしいこと、臆することなく言ってくれたなコイツ――  店の前で苦笑いをした桃瀬たちと別れ、いつものように並んで自宅に帰る。  心底呆れながら、右斜め後方にある顔を見上げてみると、窺うような視線とバッチリぶつかった。 「――何だよ、その顔は?」  まるでご主人に叱られて、しゅんと落ち込んでる飼い犬みたいだ。 「タケシ先生、すっげぇ怒ってるでしょ? その……ちょろっと願望が、口から出ちゃったみたいな」 「怒るよりも呆れ果てたよ。涼一くんの愛の告白が、とても可愛く思えたね」 「だってしょうがないだろ。ずっとお預け、くらったままなんだからさ」  軽井沢の病院で、自分の気持ちを思いきって告げ、晴れて両想いになった俺たち。抱き合って見つめ合ったまま―― 『早く病気を治して戻って来い。首を長くして待っててやるから』 『分かった、約束する! タケシ先生を、最後の恋人にするために頑張るから……』  そして引き寄せられるように、ゆっくりと唇を重ねて、今まで離れていた寂しさを埋めるべく、互いを貪りあった。  太郎が――いや、歩が生きて俺を抱きしめている。それだけで心の底から、嬉しくて堪らなくて。  涙を必死に堪えていると、いつものように右目尻に優しくキスをされたんだ。 「そんな辛そうな顔すんなって。俺はこうして、ちゃんと傍にいるから」  ――そんなの分ってる……そう、口に出したかったのに。  それすらも胸が絞られる痛みのせいで、まったく出てこなくて、下唇を噛みしめながら歩に抱きついたら、そのままベッドに押し倒されてしまった。 「俺が生きてる証拠、教えてやるよ。タケシ先生……」  耳元で甘く囁かれる言葉に、ぶわっと頬に熱を持つ。 「だからってそんなに下半身、押しつけてくるな。もう充分に分ったから」 「物欲しそうな顔しながら、そんなこと言っちゃって。俺自身を直接感じられて、すっげぇ嬉しいでしょ?」  少し掠れた声で言いながら、耳朶を甘噛みする。 「……っ、やめっ……病室なんてリスキーな場所で、そんなこと……出来るワケないだろ」 「だからヤるんだよ、ワクワクするし」  ヤル気満々の歩が、シャツに手をかけたタイミングで扉がノックされ、慌てふためいた俺は、誤って目の前にある頭と、勢いよくぶつかってしまった。 「いった~……」  頭を抱え、うずくまる太郎にガバッと布団を被せると、傍にあった椅子に座り、何事もなかったように上手く装ってみる。 「失礼します、検温の時間です……ってあら、どうしたのかしら?」 「ああ、少し前から頭痛がしていたみたいです。もう治まってきたよね?」  苦笑いして布団の中を覗きこむと、俺の顔を涙目でギロリと睨んできた太郎。 「突然すみません。私、地元で王領寺 歩くんの担当医をしておりました、周防 武と申します。こちらの病院の担当の先生に、お話を是非ともお伺いしたいのですが――」  あらかじめ持参していた名刺を素早く取り出し、押し付けるように看護師に手渡すと、さっきの俺みたいに見事慌ててくれて、すぐさま担当医を病室に連れて来てくれる。  そのあと、いろいろ話し込んでいたら、入れ替わり立ち代り看護師が入って来ては、太郎の血圧測定や包帯を取り替えたり、果てはお茶を持ってきてくれたりと、ずっと病室内はバタバタしっぱなし。  退院後も学業復帰など太郎本人も忙しく、やっと逢えたのが今日で。ふたりきりになったのは、本日がはじめてだったのである。  なので太郎がずっと、お預けを食らったままというのは事実だった。まぁ実際俺も、お預けを食らっていることになるんだけどな。  ――悔しいから絶対に、言ってやらないけど。 「そんなことよりもお前きちんと、授業についていけてるのか? 体よりもそっちの方が、俺の中では心配になってきた」  なぁんて余計なことを眉間にシワを寄せて、わざわざ訊ねてくるタケシ先生に、ものすごくガックリとしたのは言うまでもない。 「確かに学力は優秀じゃないけど、それなりについていけてるから」 「ホントか? バカに毛が生えた程度じゃないのか?」 (何だよ、それ……) 「あのさ、愛しの恋人に対してその発言は、かなぁり問題ありと思われる」 「愛しの恋人だからこそ、真剣に心配してやっているんだ。あり難く思えよ」 「心配してるなら、普通は分からない所があれば、手取り足取り優しく教えてやるぞ。って言うトコじゃねぇの?」  口を尖らせて、次々と文句を言ってみると、じと目で睨んできた。 「子どもの自立心を、しっかりと養うためだ。必要以上に手は貸さん」 (うわーうわー、こういうときだけガキ扱いって、マジで酷すぎる)  ムカつきながら歩いているうちに、タケシ先生の家に到着。鍵を開ける後ろに続いて中に入ってから、目の前にある背中に自分のキモチをこめて、ぎゅっと抱きついてやった。 「ガキじゃないこと、教えてあげる――」  耳元で囁いてから、タケシ先生の体を壁に強引に押し付け、逃げないようにしっかり両腕で囲ってから、キスしようと顔を近づける。  俺が迫るより先に、タケシ先生の顔が突然、ぐっと近づいてきた。進んでやって来た行動に内心喜んだ矢先、額に激痛が走る――容赦のない頭突きをされたから。 「いって~……」 「こんなトコでいきなり襲うなよ、バカ犬!」  こんなトコって、やっとふたりきりの空間なのに。どうしてタケシ先生に壁ドン、チューが成立しないんだよ。  壁にめり込ませるくらいの勢いで思いきりドンして、体を固定させなきゃダメなのか!? 今まで他のヤツに、こんな風に拒否られたことないのに……  ――愛情、疑ってしまうじゃないか!  俺は無言でタケシ先生の脇を抜け、病院の方に向かって、スタスタと歩いて行った。

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