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Love too late:恋するキモチ4
「おいこら、どこに行くんだ!?」
その声を無視して真っ直ぐ診察室に入り、電気をつけて中の様子を確かめる。俺の描いた絵が、いつも使っている診察室の机の目の前の壁に、ちょこんと飾ってあった。
タケシ先生はどんなキモチで毎日、この絵を見ているんだろうか――一日の大半を、この場所で過ごしているからこそ、ここに飾ってくれたんだろうけど。
「お前に、聞きたかったことがあるんだ。一瞬の会話から、あの景色を選んで描いたんだろうけどさ。どんなことを考えながら、その絵を描いたのかなって」
診察室にあるベッドに、いつの間にか座って、こっちを見ながら質問してきたタケシ先生。
「実はこの絵、ちょっとだけアレンジしてるんだ」
「アレンジ?」
「バックにある、紅葉と黄色い車の色のバランス。実際はもっと、赤の主張が多かったろ。それを控えめにして、車の窓ガラスに空の青を入れて、黄色をアピールしてみたんだ」
紅葉の色と、車の黄色に差し色を入れることによって、より色を引き立たせてみた。
「あのときのシチュエーションは、すっごく最悪だったのに、この絵を見ると何故か、いい思い出しか浮かばないんだよ。何でだろうな――」
目を細めて嬉しそうに、俺の描いた絵を見てくれる。
軽井沢の病院で、タケシ先生に再会したとき、本当に嬉しかった。まさか捜しだしてくれるなんて、夢にも思っていなかったから。
だから嬉しくて、この手に抱きしめようとしたのに、さっきと同じように頭突きをしてきた挙句、地元の担当医として華麗に演技をしてくれて。
すっげぇ最悪だったのが引っ切り無しに、いろんな人がやって来たこと。
軽井沢の担当医は分かる。なのに、関係のない若い女の看護師たちが、んもう呆れるくらい、次から次へと用事を作っては病室に入ってきたのだ。
それは、イケメン開業医のタケシ先生のせい――
いつも通り、幾重にも猫を被って優しく対応してる姿に、胸の中がこれでもかとジリジリした。せっかく逢えたのに、俺はまったく構ってもらえなかったから。
挙句の果てには、タケシ先生が帰ってから、看護師たちに詰め寄られ、彼女がいるかどうか、根掘り葉掘り聞かれたこと。
「俺がカレシだ、どうだ驚け!!」
なぁんて言えるワケないから仕方なく、キレイな彼女をでっちあげてやったんだ。
そんな軽井沢のことを思い出しながら、どこかぼんやりしている、タケシ先生を見つめてやった。何考えてるか分んねぇけど、ほんのりと目元が赤くなってる。
「タケシ先生、俺のこと好き?」
「あ? ああ……」
ベッドに座ってるタケシ先生の両肩を掴んで、勢いよく押し倒した。
「何するんだっ、ここは神聖な診察室だぞ」
「だからだよ。いつでも俺を、思い出してほしいから」
「……歩?」
離したくない、ずっと傍にいたい――
不思議そうな表情で、俺を仰ぎ見る視線。
「やっぱタケシ先生の言うとおり、俺ってガキだ。次から次へと、ワガママしか出てこないから」
そのあたたかい体を、両腕でぎゅっと抱きしめる。
「バカだな。そのワガママを聞くために、俺がいるんだろ?」
心に染みるような優しい声が、俺の耳にそっと届いた。まるで、その声に包まれてしまいそうだ。
「全部とはいかないまでも、なるべくなら聞いてやるよ。大好きな、お前のワガママなんだからな」
「タケシ先生……」
「だからお前も俺のワガママを、ちゃんと聞くんだぞ……分ったな?」
タケシ先生のワガママ――何だか想像つかない。
「……涼一くんのこと、なんだけど――」
突然の話題転換。一体何なんだ、頭がついていかないぞ。
「小田桐さんが、どうかした?」
「お前、妙に見つめていたよな。その……気に入ったのか?」
気に入ったというか、目の前にいることが偶然、多かっただけなんだけど。
「確かにキレイ目男子で、目の保養だなぁとは思ったよ」
「しかも結構、話も盛り上がっていたよな」
「…………」
(もしかしてタケシ先生、小田桐さんにヤキモチ妬いているんじゃないか!?)
体に回してる腕の力をすっと抜いて、じっとタケシ先生の顔を見つめると、わざわざ横を向いて、視線を逸らした。
「あんまり仲良くなるなよ。桃瀬に文句言われるの、俺なんだから……」
横を向いて顔を隠したんだろうけど、そのお陰でしっかりと見えてしまった。頬から耳にかけて、いい色に染まってる姿。
耳を赤くしながら告げてきた言葉に、思わずニヤけてしまう。
「タケシ先生のワガママ、超可愛いんだけど」
「うっさいな、これはワガママじゃなく注意だよ。バカ犬っ!」
「じゃあ今度は、俺のワガママ聞いてよ。この恋するキモチに、是非とも応えてほしいんだ」
そう言って大好きな泣きボクロに、そっと口付けをした。
「俺が嫌いな野菜を頑張って食べたように、タケシ先生にも甘いもの、進んで食べてほしい」
「甘いもの?」
「せっかく、甘い雰囲気に持っていこうとしても、頭突きとか力技で阻止するの、いい加減に止めてほしいんだ」
困った顔して訴えると、心底可笑しそうにクスクス笑い出す。
「しょうがないだろ、慣れていないんだから。正直、照れ隠しもあったりするし。だが、お前のワガママだしな、なるべく頑張ってみるけどさ」
「じゃあ、頑張るついでに今、ここでしよ……」
俺の言葉に一瞬眉根を寄せたけど、しょうがないなと呟き、触れるだけのキスをしてくれた。
「ホント困ったヤツ――いろいろ頑張ったご褒美にくれてやるよ」
そんな投げやりな物言いなのに、嬉しそうに笑ったタケシ先生を、これでもかと強くぎゅっと抱きしめてから、美味しく戴いたのだった。
もう胸がいっぱいで、一度で終わらなかったのは言うまでもない――
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