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Love too late:募るキモチ(歩目線)3

***  横なぶりの雨に打たれ、体は結構冷え切っているけど、心の中は別な意味でたぎっている俺は、静かにタケシ先生の家の玄関前に佇んだ。  ため息ひとつついてから、ゆっくりとインターフォンを押す。しばらくしたら、のん気な声が耳に届いた。 「お待たせしました~、どなた様ですか?」  ――多分この妙なテンションは、お酒が入ってるに違いない…… 「……俺」  タケシ先生のあまりな態度に、呆れ返ってやっと告げた言葉。らしくない俺の気配を察知したのか、慌てて扉を開けて目を見開き、すっげぇ驚いた顔をする。 「お前っ、どうしてそんなに濡れてんだ!?」 「傘……途中で壊れた」  俺が濡れてることなんて、どうでもいいだろうよ。心の中でコッソリ毒づいて、変なウソをついてしまった。 「早く中に入れ。ちょっと待ってろ」  急いで病院からバスタオルをわざわざ持ってきて、ふんわりとしたそれを俺の頭に被せながら、濡れた体を丁寧に拭ってくれる。  その仕草から、俺のことを大事に思っているのが、じわじわと伝わってきたんだけど。 「だいぶ体が冷え込んでるな。風邪を引くかもしれない。風呂沸かしてやるから、さっさと入りなさい」 (体の冷えなんて、放っておいたら勝手にあったかくなるし、風呂だってどうでもいい) 「……どうして、れ…な……っ…」  こみ上げてくるキモチが、言葉となって出てきた。なのに聞こえなかったらしく、冷たい声で訊ねられる。 「悪い。もう一度言ってくれ」 「タケシ先生は一週間、俺から連絡なくて不安になったりしないの?」 「あ……それは――」  言いかけて飲み込む言葉――その先は一体何なんだよ。  俺の体を拭いてる手が止まり、妙な沈黙が続いた。きっとタケシ先生は俺が納得するようなことを、必死で考えているに違いない。 「俺が連絡して作業してるトコに、水を差したくなかったから」  告げられた言い訳に、奥歯をぎゅっと噛みしめてしまった。 「そんなの、気にしなくていいのにさ。ずっと待ってたんだ、俺」 「ごめん……そこまで気が回らなくて」  タケシ先生の口から出てくる台詞が、俺の心にどんどんキズをつけていく。 「謝ってほしくて言ったんじゃない。だっていっつも俺からなんだもん。好きって言うのも抱きしめるのも、Hするのも何でもかんでも、いつも俺からだから。今まで付き合ったヤツに、こんな風に放置されたことなかったし、すっげぇ不安になったんだ」  どうでもいい存在じゃなければ、連絡くらいするだろうよ! それとも――  悔しくて堪らなくなり、タケシ先生の細い腕をぎゅっと掴んでしまった。その瞬間、頭を覆っていたバスタオルが肩に落ちる。  動揺しまくりのタケシ先生の顔が、目の前にあった。 「タケシ先生は、大人だから寂しいくないのかもしれないけど、俺はすっげぇ寂しかったんだ。夢に見ちゃうくらいすっげぇ逢いたくて、声が聞きたくて抱きしめたくて堪らなかった……」 「それは俺だって、ホントは寂しかったさ」  口では、何とでも言えるだろ。取り繕うのがマジで上手だよな。 「それが伝わってこねぇんだよ、全然。俺がいなくても、平気ですっていうのだけが、ビンビン伝わってくるんだ。悲しいことに……だから一週間も放置できるんだろ」 「もう、落ち着けって。俺だって本当は連絡したかったよ。だけどな――」 「じゃあなんで、自分から好きって言ってくんないんだ? テレるような年でもないだろ」 「うっ……」  なーんでこのタイミングで、照れるんだか。モジモジしてもここはハッキリ、自分のキモチを言うべきトコだろうが! 「……ほら、言ってくんないし。俺に対する愛情がないからだろ」 「ちょっと待て。心の準備が――」 「何が心の準備だ、大人のクセして情けねぇな。Hだってしてるのに、それくらいどうして言えないんだっ」  きっと俺のこと好きじゃないから、平気でいられるんだ。俺だけがタケシ先生が好きで、熱を上げてるみたい――すっげぇ、惨めすぎるんだけど……  イライラが頂点に達した俺は、タケシ先生の頭にバスタオルをグルグル巻きしてやり、飛び出すように家を出てしまった。  その後メールや電話が入ったけど、全部スルー。行き場のないキモチが、俺を混乱させる。

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