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Love too late:揺らぐ境界線

 ――面倒くさい。 「何なんだよ、一体っ! いきなり現れたと思ったら言いたいことだけ言って、バスタオル巻きつけて、さっさと帰っちゃうとか、あり得ないっ!」 (こんなことでイライラしてしまう自分が、一番面倒くさい)  手に持っているバスタオルをぎゅっと握りしめてから、意味もなくそれを抱きしめてしまう。 「せっかく逢えたっていうのに、どうしてこんなことになったんだ。お互い想いあってるはずなのに、どうして……」  ままならない自分の気持ちが、本当に面倒くさい……  今回のことに関しては、歩からの連絡を待ってばかりで、まったく行動を起こさなかった。だから、自分が悪いって分かってる。分かってるだけに―― 「一方的に言うだけ言って、謝ったこっちの気持ちをキレイに無視して、怒って帰るアイツも悪いんだ、絶対にっ!」  俺だけが悪いと思いたくなくて、無理矢理な理由をつけた。つけたところで、さっきの言い合いが、なくなるワケじゃないのに。  肩を落してとぼとぼ階段を上がり、そのままキッチンに行く。冷蔵庫から冷えたビールの缶を取り出してリングプルを開け、グビグビッと一気呑みをした。  お風呂上りに呑んだものよりも、苦く感じるのはどうしてだろう?  胸が、締めつけられるように痛い……どうしていいか、分からないよ。  下唇を噛みしめてリビングにあるソファに座り、テーブルの上に置いてあった、スマホを手に取る。 「……困ったときは、桃瀬にれんら――」  アドレス帳を開いて、そのままフリーズした。この選択は間違ってるって、アイツの声が聞こえたから。 『どうして困ったときに、桃瀬に連絡すんだよ。親友だから、何でも頼ればいいと思ってるんじゃねぇの。どうせ俺なんて、頼りにならない男ですよ!』  以前、歩との問題を解決してくれた経緯があったから、思わず頼もうとしてしまった。 (この場面は間違いなく、恋人に連絡すべきところだ)  自分を納得させるように考えてから、さくさくっと歩にコールしてみたのだが。 『――お客様のおかけになった番号は、電波の届かない場所に……』  無情にもそれは繋がらず、俺の想いと一緒には届かなかった。さっき逢った歩の心みたいで、絶望にも似た感情が渦巻いていく。 「歩……こんなに好きなのに、どうして――」  鼻をすすりながら次は、メールの画面を開いてみた。落ち込んでしまった今、書こうとしている文章は、どれもアイツを責めることばかりを書きそうで、つい躊躇ってしまう。 「当たり障りのない言葉、何かないかな?」  降りしきるこの雨に打たれて今頃、家路に向かっているだろう。すっごく、体が冷えていた―― 「……風邪を引かなきゃいいけど。肺を患ったことがあるんだから、気をつけなきゃならないのに」  医者として恋人として、心配の種は尽きない。考えるだけで、いろいろ思いついてしまうのに――それが素直に言葉に出来ないってホント、ダメすぎる。  痛む胸元を押さえながら、それでも一生懸命文章を考え、やっとメールを打ち終わり送信した。 『一週間も、放っておいてごめんなさい。だけどさっきも言ったように、邪魔をしたくなかったから、連絡をしなかったんだ。俺だって本当は寂しかったよ。  雨に打たれて、芯から体が冷えてるだろうから、風邪を引かないように、きちんとお風呂に入って、あったかくして寝てください』  だけどメールの返信も、折り返しの電話すら来なくて、俺の不安が日々募っていくばかり。  どうしていいか分からなくなり、頭を抱えながら、藁をも掴む思いで結局、桃瀬の家に駆け込んでしまった。

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