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Love too late:すれ違う想い
土曜の午前中は病院を開けなきゃならないので、学祭最終日の日曜に行くことに決めた。
「……どんな恰好して行けばいいんだろ」
数日前に最悪な別れ方をしてしまったけど、久しぶりに逢えると思うと、変にテンションが上がってしまい、コントロールが全然出来なくて。
学祭当日の朝は早起きして、クローゼットからありったけの服を、これでもかと引っ張り出し、ひとりファッションショー状態。
「今更、どんなものを着たって変わんないのに、何やってんだ……」
頭では理解しているのに、キモチがどうしようもなく高鳴っていて自重できない――
「歩の学校に行くんだから、失礼のないようにしないと」
なぁんてひとりでブツブツ言いながら結局、キレイ目カジュアルに決めた。
洋服選びに時間がかかってしまったため、学校に着いたのは午後十二時過ぎ。ちょうどお昼時なので、外で販売している食べ物系の屋台は、大変混雑していた。
「男子校って、もっとむさ苦しくて汚いイメージしていたけど、思ったより綺麗なものなんだな」
校庭から生徒玄関に向かい靴を履き替えて、キョロキョロと辺りを見回す。共学しか行ったことのない、自分のイメージをがらりと崩してくれたのは、女のコが喜びそうな装飾を施した、可愛い教室があちこちにあったからだろう。
「女のコをおびき寄せるオオカミくんが、たくさんいそうだな」
苦笑しながら玄関で貰ったパンフレットを開いて、3年生の出し物をチェックしてみる。3の1がゲームセンターに、3の2が執事喫茶、3の3がお化け屋敷。
(――さて歩は、どのクラスにいるんだろうか)
顎に手を当ててぼんやり考えながら、2階にある3年生の教室を目指し、ゆっくりと階段を上った。
ふぅとひとつため息をついて、3年生の出し物を見るべく、廊下を行きかう人に紛れて、こっそりと歩を捜す。
勝手に心拍が上がって、すっごく緊張してる――この教室のどこかにいると考えただけで、胸が痛いくらいにドキドキしちゃって。握りしめている手のひらに、変な汗が滲んできた。
しかも俺ってば今、すっごい可笑しな顔をしているかもしれない。歩に逢えると思ったら、嬉しさがぶわっと滲み出ちゃって、自然とニヤけてしまう……
「いかん、いかんっ。もっと気を引き締めなければ!」
こんなの絶対、アイツに見せられない。どんなツッコミをされるか、分かったもんじゃないからな。
首を左右にブンブン振りまくり、パッと顔を上げたときに気がついてしまった。
「どこだよ、ここは――」
俯きながら自分自身と格闘している間に、行き止まりのところまで、ひたすら歩いてしまったようだ。
「イヤやだよ、ホント……朝の洋服選びから始まり今の状態って、いつもの俺じゃない。ハズカシすぎる」
どんなことがあっても動じない、冷静沈着なオトンの周防 武と、高校時代は言われていたのに、その面影すらない。
年下でワガママばかり言う恋人に、ちょっと逢いに来ただけなのに。
そりゃタイミング悪くて現在、ケンカ中ってのいうもあるけれど、それでもアイツにすっごく逢いたいって強く思ったから、ここに来たんだ。
(ちゃんとして逢って、謝らなければ!)
両頬をパシパシ叩いて気合を入れ直し、歩いて来た道を引き返す。教室の前を歩きながら様子を見て、とりあえず一往復してみようと考えた。
教室の前を歩くときはゆっくりと、その他はスタスタという感じの歩幅で歩いて行き、それぞれのクラスの様子をじっと窺ってみる。
男子校なれど、仲間意識が高いのかワイワイ言い合いながら、どのクラスも楽しくやっているみたいだ。
ちょうど3の2でやっている、執事喫茶の暖簾の近くを、通り過ぎたときだった。
「ちょっ、もう少し、何とかならないのか。お客相手なんだからさ、愛想くらいよくしろよ。お前、一番人気なんだから」
「うっせーな……こっちは休憩なしで、立ちっぱなし状態なんだ。疲れた顔をするなって言うほうが、無理な話だぜ」
(この声、歩じゃないのか!?)
思わず立ち止まり、聞き耳を立ててしまう。
暖簾の反対側の教室では、喫茶店をやっているようで、たくさんの女のコたちが嬉しそうな顔して待っていた。
その様子をもっと知るべく、喫茶店の方を覗いてみたら、口々に語られているセリフ――
「歩くん、まだかなぁ?」
「忙しそうにしてるもんね、もうすぐ来るよ」
「王領寺くんのカッコイイ姿、撮っちゃおう!」
等など、あちこちから賞賛の声が、次々と上がっているではないか。
アイツ、どんだけモテ男なんだよ……男子校に通ってるクセして、どうやって女のコと知り合ってるんだ?
ウキウキ状態の喫茶店を見ているだけで、胸の中にチリチリしたキモチがぶわっと湧き上がり、押さえ込もうとしてもどんどん溢れ出す。
何だか自分が、歩の恋人であることがすごく申し訳なく思えてきてしまい、下唇を噛んで俯いたときだった。
暖簾をくぐった歩と、ばっちり鉢合わせをしてしまって、お互いひゅっと息を飲む。
悲壮感漂う俺と不機嫌満載の歩――これ以上の最悪な、再会の仕方はないだろう。
信じられないという表情を浮かべて、何かを口にしようとした歩を見、眉間に深いシワを寄せてみせる。
「……お前、何やってんだっ!?」
「は――?」
「俺が仕事してるとき、どんなに疲れていても不機嫌な対応してるの、お前は見たことがあるのか?」
言いながらつい、いつものクセで頭を叩いてしまった。だけど威力は半減してやる。
「痛っ! あの……どんなときでも、ちゃんと患者さんに笑顔で向き合ってる」
「だろう? わざわざここを選んで来てくれたお客に対して、ありがとうございますの意味を込めて、きちんと応対しなきゃならないんだよ。たとえどんなに疲れていてもだ! 一番人気だからってお前さ、天狗になってんじゃないのか?」
胸の中に渦巻くイライラのせいで、言わなくてもいいことまで告げてしまい、思わず口元を押さえた。そんな俺の様子に、いつものへらっとした笑みを浮かべて、じっと見下ろしてくる。
「もしかして、わざわざ来てくれたのって、俺の人気ぶりを見に来たの? タケシ先生」
「っ……ああ、そうだよ。すごいじゃないか、呆れちゃうくらい人気者だな。ほら、早く行ってやれって。勿論、笑顔を忘れるなよ! バカ犬がっ!」
無理矢理笑顔を作り、大きな背中を押して店の中に入れてやると、女のコたちが歓声を上げた。それに対して、俺の言ったとおりにきちんと笑顔を振りまきながら、ひとりひとりに声をかける歩。
「ゴメン、待たせちゃって。今、順番にオーダー取っていくから」
「歩くん、うちらが先だよ! コッチから!」
「ちょっと、こっちが先だってば」
「一緒に写真撮ってー!」
歩に強請られる、たくさんの言葉を振り切るように、背を向けて立ち去った。
素直になるって、決めたのに――何やってんだよ俺……
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