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Love too late:難儀なキモチ2

***  やりすぎた――反省しても、とき既に遅し……  いくら恥ずかしかったからって、横っ面を思いっきりクリーンヒットさせる恋人は、俺くらいしかいないんじゃなかろうか。  痛めた頬を撫でながら、怒って先に帰ってしまった歩。せっかく仲直り出来たのに、何やってんだ。  ガックリと肩を落してベンチから腰を上げ、俯きながら階段に向かって歩いていくと、目に映る細身のシルエット。  ゆっくり視線を上げ、シルエットの正体を見つめた。 「……歩?」  口を尖らせて、明らかに怒ってますという表情を浮かべながら、左手を差し出してくれる。  ――正確には、左手人差し指なんだが……えっと地面に指を差してるワケじゃないよな?  まじまじと地面を見て確認してみたが、何も落ちてるものはない。 「んっ……」  不機嫌な声色で、人差し指を俺に向かって伸ばした。どうしようかと思いながら、恐々と右手で指先を掴んでみる。爪先をちょっと摘んだ感じ。  それを合図に歩き出した。微妙な感じで摘んだまま、トボトボと後ろを歩く俺。  ――何なんだ、この絵面。おかしすぎるだろ。指先1本に連れられるって一体……普通なら洋服の裾なんかを掴んで、嬉しそうに歩くものじゃないのか!?  目の前にある大きな背中と、繋がれてる指先をチラチラと見比べながら、ゆっくりと階段を下りる。  どうして高台から帰るときって、いつもケンカばかりしているんだろうか。朝焼けや夜景を見てる最中は、いい雰囲気なのにな。  だけどいつもなら俺を置いて、ひとりで帰ってしまう歩が待っていてくれた。怒ってはいるけど手を差し伸べて、俺と一緒に帰っている……正確には、左手人差し指だけど。  それだけでも、嬉しさが胸の中に湧き上がってきたのに、残念なことにそれを伝える術がないから、一生懸命考えてみた。 (せめて少しでもいいから、接触している部分を増やしてやろう)  ちょっとずつ摘んでいるところを開拓すべく、親指と人差し指を使って、じりじり移動させ、手のひらで包むことに成功。歩の指をぎゅっと握りしめてやる。  そしたら親指の腹を使って、俺の手の甲をスリスリと撫でてくれた。その感じが何だか、犬が喜んでしっぽを振ってるみたいに見える。  たったそれだけのことなのに、俺のキモチが伝わったみたいで、すっごく嬉しくて堪らない……会話がなくてもちょっとした仕草で、こんな風にキモチを伝えることが出来るんだな。  変な手の繋ぎ方だけど、まるでそれが俺たちの関係みたいで可笑しくなり、思わず口元が緩んでしまった。 「なぁ、タケシ先生」 「何だ?」  繋がれた手元ばかり見ていた俺は、歩の声に顔を上げると、少しだけ目元を赤らめた視線とぶつかった。 「そんなだらしない顔、他のヤツに見せんなよ」  言いながら握りしめてる人差し指を俺の手のひらから抜き去って、きちんと恋人繋ぎで握りしめる。 「ほらまた変な顔してる。こんなことくらいで、いちいち反応すんなよ」 「し、しょうがないだろ。だって……嬉しいんだから、さ」  素直にならねばと思い、何とか告げた言葉だったのに、何故かゲッという表情を浮かべた歩。 「なーんか調子狂うな、何か企んでる?」  握りしめている手を引き寄せて、まじまじと顔を見つめてきた。 「お前こそ、何か企んでるんじゃないのか? いつもなら高台でケンカしたら、俺のことを置いていくクセに、さっき待っていただろう。らしくないぞ」  見つめてくる視線に負けないように睨んでやると、少しだけ困った顔をする。 「やっ、だって。その……少しでも一緒にいたいって思ったから。待ってみた、ような感じ……」  歩のことを殴った俺なのに、一緒にいたいなんて――どうしよう……胸がひどく疼いてしまうじゃないか。 「歩……待っていてくれてありがと。嬉しかった。すっごく……」  恥ずかしくて俯きながら告げてしまった、大事な言葉。しかも嬉しいという言葉の連呼に、芸がないなと内心、苦笑するしかない。  頬がひどく熱をもつ。きっとさっきよりも、だらしない顔をしているだろう。  歩から放たれる視線に耐え切れず、そっぽを向いて、緩んでいるであろう口元を引き締めてみた。 「知ってる。指先からちゃんと伝わってきたから。早く帰ろう、そんな顔されてると、ガマン出来なくなるし……」 「ああ……」  さっきよりもぎゅっと、お互いの手を握りしめ、足早に自宅へ向かう。  言葉にしなくても伝わる想いがあることに、やっと気がついた夜。何かが起こる予感が、何となくだけどあった。

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