76 / 126
この恋すいーつ3
***
飛び出すように、歩のいた病室から出て慌てて扉を閉め、足元をフラフラさせながら、傍にある談話室の椅子に座り込んでしまう。
「ショック療法で、記憶が戻るかと思ったけど、やっぱり上手くいかないものだな……」
テーブルに顔を突っ伏させる。もう心底、疲れてしまった――
普段言わないようなことを、ぽんぽん口にしてみたら、歩が驚いた顔をしてる姿を見て、すっごくドキドキしたんだ。俺に翻弄されて、慌てふためくその様子が、またしても可愛らしくて。
「……余計、好きになっちゃったじゃないか、どうしてくれるんだ。バカ犬がっ!」
きっと、校内にいるときはあんな様子で、ちゃらちゃらしていたんだろうなって、容易に想像ついた。
俺の前ではまんま子供だけど、大人ぶった生意気な口の訊き方をしつつ、好きだぜ。なぁんて囁かれた下級生は、簡単に騙されてしまうだろう。
そんな風に背伸びをして、頑張って大人ぶってる姿に、年上の誰かさんもコロッといっちゃうかもしれない。故にオールマイティ。
「つくづく、厄介な男を好きになってしまった。まったくもって面倒くさい……」
歩じゃなく、自分自身が面倒くさい。いつもと違う歩を見たくらいで、ドキドキして気持ちを持て余してる。
胸の奥が疼いて、堪らなくなる――
「今度は、俺が落としてやる。なぁんて豪語したのはいいけど、夢中にさせるほどの魅力が、自分にあるとは思えない……」
ρ(・`D´#)もぉぉっ!
自分にイライラしても、しょうがないのだけれど。
「……問題は、自分から迫ったことがない。ということだろうな。これは難題だぞ、困った――」
いつも受身でいた自分。迫ることに対しての難しさを病室で、イヤいうほど痛感してしまった。だけど――
「歩をケガさせて、守りきれなかった自分への罰だ。甘んじて、受けなければなるまい」
頭を掻きむしってから立ち上がり、はーっとため息をついた。ゆっくりと足を進ませ、大好きな歩のいる病室の扉の前に佇む。
「記憶がなくても大丈夫だから。俺はずっと、お前のことを好きでいるからな」
見ず知らずの可愛げのない男に迫られて迷惑だろうが、俺は諦めるつもりは毛頭ない!
「お前が迫ったときのことを思い出しながら、じわじわと迫ってやるから。覚悟しておけよ」
多少の不安はあるけど、粘り強さには自信がある。頑張ってやるさ、お前の笑顔をまた見たいから。
バカ犬って呼んでいたあの頃の、すっごく嬉しそうにしていた、くちゃくちゃな笑顔が見たいんだ。
隔てられた扉が、まるで俺たちの距離のように感じたけれど、乗り越えてやろうという情熱はある。むしろ、ゴーゴーと激しく燃えている。
「おやすみ、歩。いい夢見ろよ」
そっと呟いて、素早く踵を返した。ずっと傍についてやりたいキモチを、無理矢理吹っ切るように――
ともだちにシェアしよう!