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この恋すいーつ3

***  飛び出すように、歩のいた病室から出て慌てて扉を閉め、足元をフラフラさせながら、傍にある談話室の椅子に座り込んでしまう。 「ショック療法で、記憶が戻るかと思ったけど、やっぱり上手くいかないものだな……」  テーブルに顔を突っ伏させる。もう心底、疲れてしまった――  普段言わないようなことを、ぽんぽん口にしてみたら、歩が驚いた顔をしてる姿を見て、すっごくドキドキしたんだ。俺に翻弄されて、慌てふためくその様子が、またしても可愛らしくて。 「……余計、好きになっちゃったじゃないか、どうしてくれるんだ。バカ犬がっ!」  きっと、校内にいるときはあんな様子で、ちゃらちゃらしていたんだろうなって、容易に想像ついた。  俺の前ではまんま子供だけど、大人ぶった生意気な口の訊き方をしつつ、好きだぜ。なぁんて囁かれた下級生は、簡単に騙されてしまうだろう。  そんな風に背伸びをして、頑張って大人ぶってる姿に、年上の誰かさんもコロッといっちゃうかもしれない。故にオールマイティ。 「つくづく、厄介な男を好きになってしまった。まったくもって面倒くさい……」  歩じゃなく、自分自身が面倒くさい。いつもと違う歩を見たくらいで、ドキドキして気持ちを持て余してる。  胸の奥が疼いて、堪らなくなる―― 「今度は、俺が落としてやる。なぁんて豪語したのはいいけど、夢中にさせるほどの魅力が、自分にあるとは思えない……」  ρ(・`D´#)もぉぉっ!  自分にイライラしても、しょうがないのだけれど。 「……問題は、自分から迫ったことがない。ということだろうな。これは難題だぞ、困った――」  いつも受身でいた自分。迫ることに対しての難しさを病室で、イヤいうほど痛感してしまった。だけど―― 「歩をケガさせて、守りきれなかった自分への罰だ。甘んじて、受けなければなるまい」  頭を掻きむしってから立ち上がり、はーっとため息をついた。ゆっくりと足を進ませ、大好きな歩のいる病室の扉の前に佇む。 「記憶がなくても大丈夫だから。俺はずっと、お前のことを好きでいるからな」  見ず知らずの可愛げのない男に迫られて迷惑だろうが、俺は諦めるつもりは毛頭ない! 「お前が迫ったときのことを思い出しながら、じわじわと迫ってやるから。覚悟しておけよ」  多少の不安はあるけど、粘り強さには自信がある。頑張ってやるさ、お前の笑顔をまた見たいから。  バカ犬って呼んでいたあの頃の、すっごく嬉しそうにしていた、くちゃくちゃな笑顔が見たいんだ。  隔てられた扉が、まるで俺たちの距離のように感じたけれど、乗り越えてやろうという情熱はある。むしろ、ゴーゴーと激しく燃えている。 「おやすみ、歩。いい夢見ろよ」  そっと呟いて、素早く踵を返した。ずっと傍についてやりたいキモチを、無理矢理吹っ切るように――

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