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第7話

「……え」 不穏そうな言葉に思わず智紀さんを見てしまう。 見なきゃよかった、とすぐに後悔した。 笑顔を浮かべているけど、その目は艶っぽくて俺を誘うような色気を放っていた。 「気持ちいいこと、しよっか、ちーくん」 片手は腰を支えたまま、もう片方の手が俺の顎を捉える。 「あ、の」 キスくらい上手く出来なきゃ好きな子に嫌われるよ。 そう笑って智紀さんは俺の口を塞いだ。 ―――嫌われるも何も、俺と鈴が結ばれることは一生ない。 そんな思いがよぎるけど、あっというまに消されていく。 「……っ……は」 やっぱりこれまでしてきたキスと全然違う。 絡みついてくる舌から鳥肌が立つような刺激が送られてくる。 抵抗するように智紀さんの腕に手をかけて離れようと力を加えた。 「……ッ」 だけど舌を軽く噛まれて、両手で拘束される。 抱き寄せられて肌と肌が密着した。 何度も角度を変えてキスされていくうちに力が抜けていくのを感じた。 「……ちーくんも舌、動かしな」 ほんの少し離れた唇が、俺にそう命じる。 無理だ―――。 理性が拒否するのに、また咥内に差し込まれた舌におずおずと舌を絡める自分がいる。 ジャグジーの気泡が吐き出される音にまぎれるように、俺の脳内に響く水音。 抵抗する力はいつのまにか弱まっていた。 相手は男なのに。 いや、相手が鈴以外の女とするキスは全部どうでもよかった。 性欲を吐きだすための、惰性でするキスばかりだった。 それと同じキスのはずだ。 なのに―――。 「……ぁ……ん……っ」 涎がこぼれるくらいに何度も続けられるキスに頭がもうろうとしてくる。 風呂に入ってるからだと思いたい。 だけどそうじゃないのは俺の身体が、下半身が反応してしまってることが現実を知らせる。 「……ッン!!」 密着した肌の間で俺のものが硬くなっているのを腹部で感じていたらそれに智紀さんが触れてきた。 思わず逃げかけた身体を抱きしめられる。 お湯の中で掌に包まれて上下に扱かれる。 「……っ……は」 まじでまずい。 握られて、擦られる、なんていうのも女にしてもらったこと……あったっけ。 挿れて、吐き出せば終わりのセックスしか知らなかった俺を煽るように動く指。 終わることがないようなキスに、俺の半身に与えられる刺激に思考が溶けていく。 「……エッロイ顔」 ようやく離れた唇と唇。 俺は荒い呼吸しか吐き出せないのに、智紀さんは余裕の表情。 俺に呟く声こそ俺にしてみればエロく、甘くて――まじでやばい。 ぐらぐらする。 湯あたりならいい。 「ちーくん、舌出して」 ほら、とギュッと半身を握られて、自分から出てるなんて信じられないくそ甘い声とともに舌を出す。 空中で絡みついてくる舌。 やばい、やばい。 絶対やばいって―――。 理性が警報をガンガンならしているのに俺はされるまま、智紀さんに身体を預けてしまっていた。 水面が揺れる。 空気の冷たさが肩を冷やしていく。 だけど身体は熱かった。 「ちーくんて感度いいね」 俺のを扱きながら背中を指先で触ってくる。 背骨を辿るように動いてるだけなのにむず痒いような、気持ちいいような感覚に 身体が震えてた。 「それに、ここからもたくさん出てるよね。お湯とは違うし」 尿道を指先で弄られる。 自分の身体は自分が一番わかってる。 認めたくないけど先走りが滲み出してるのは知っていた。 いまが人生で一番恥ずかしいんじゃないのか。 楽しそうにからかわれて、顔が異様に熱い。 「……っ…く」 「ちーくん、俺も気持ちよくなっていーい?」 「……は…い?」 いまいち意味がわからずにいると少し腰を浮かされた。 それまで俺が下敷きにしてた――智紀さんの硬いものが俺のと一緒に握りこまれ る。 はじめての感覚。 そりゃ自分以外のを見たことはある。 だけど触れ合わせるなんてはじめてで、ありえない。 「……ぁ…っ」 硬く脈打つ互いの熱さが伝わってきてくらくらする。 ありえない、はずなのに腰が揺れていた。 風呂の熱さが、きっと身体の熱さを増長させてるんだ。 酒も入ってるし、だから……。 そんな言い訳ばかり自分にする。 でもそうしないと信じられない状況だからしょうがないよな。 俺のと智紀さんのを一緒に擦りあげる手が気持ちいいなんて、互いの性器が擦れあって脈動が伝わってくるのさえ気持ちいいなんて、何かのせいにしなけりゃ信じられない。 「きもちいーい、ちーくん」 耳朶を甘噛みされて、喋るたびにかかる吐息に身震いする。 耳も性感体なんだと、気づかされる。 「……っ……ン……っあ」 じわじわと湧いてくる吐射感。 最近は自分ですることさえなかったから久しぶりの刺激はきつすぎて、早々に達しそうになる。 「……ン、ん」 智紀さんの顔が近づいてきて自然に口を半開きにしていた。 塞がれて舌が差し込まれて。 ついさっき教え込まれた動きを思い出すように、自分から舌を絡めていた。 目を閉じる前に見えた夜空に浮かぶ月が満月だったから―――きっとそのせいもあるんだ。 俺が、こんなことをしてるのは。 だけど―――。 「……ッ!!」 ばしゃん、と大きく水面が揺れる。 唇が離れて、俺はとっさに智紀さんの腕を掴んでいた。 逃げるように。 だって―――。 「ああ、まだ早かった? ちょっと慣らしておこうかと思ったんだけど」 悪びれもなく笑って俺の唇を舐める智紀さん。 智紀さんの片手は自分でもそんな触ることのない―――後孔を撫でるようにそっと触れていて。 俺はその違和感と羞恥に正気に引き戻されていた。

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