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第39話
俺主導のキスなんてたかがしれてるのかもしれない。
それでも舌を絡み合わせるたびに、角度を変えるたびに深さを増していくキスにどんどん身体は反応していく。
交わる気持ちよさに無意識でもなんでもなくて自分から智紀さんの首に手をまわしていた。
ときおりからかうように俺の舌を甘噛みされ、同じように返す。
キスだけ、なのにもう思考回路が焼ききれそうなくらい頭の中が熱くなっていた。
「……っ、ん」
唾液の混ざりあう音が響く。
だんだんキスだけじゃ足りなくなってきて、じれったさに腰を揺らしてしまう。
ふ、と笑う吐息が濡れた唇にかかり下唇を噛んで智紀さんが少しだけ顔を離す。
「ちーくん。脱がせて?」
「……」
目を細め囁かれて手を伸ばす。
緩められていたネクタイを外してシャツのボタンを一つづ外していく。
智紀さんは黙って俺を見てて居心地の悪さと、そして眼差しの熱っぽさに身体が疼くのを感じる。
シャツを脱がせると結構引き締まった身体が現れて視線を泳がせながら下もだろうかと手を止めた。
ちらっと見ると目があって、「ちーくん、脱いでいいよ」と促される。
「……」
楽しんでるってのがわかる。
一瞬反論しようかと思ったけど、ホワイトデーだし……それに―――……ただなんとなく無言で服を脱ぎ捨てた。
空調が整っている室内だけど素肌が空気に触れると身動ぎしてしまう。
下もやっぱ自分で脱ぐんだろうか、ってまた迷った途端、腰に手が回る。
「っわ」
思わず声を上げた俺の身体は後に倒された。
「今日は最初から素直だね」
爽やかさが少し欠けた智紀さんがからかうように笑って俺のズボンのベルトに手を伸ばした。
「いつも素直ですけど」
気まずさを誤魔化すように素知らぬふりをする。
智紀さんは小さく吹き出して慣れた手つきであっさりズボンを脱がしていく。
トランクスにも手がかかって思わずその手を掴んだ。
「なに?」
「あ……の、もうちょっと照明落としてもらえないですか……」
こんなこと言うのも気恥ずかしかったけど室内は明るすぎてやっぱ抵抗ある。
またからかわれるかなって思ったけど智紀さんは「りょーかい」と言って照明を落としてくれた。
ベッドの軋む音と緩く暗くなっていく明かり。
そしてカサカサとビニール袋を探る音。
真っ暗じゃなくて互いの顔や身体がちゃんとわかるくらいの暗さ。
智紀さんが取り出してるのがなにかっていうと男同士のセックスで使う必需品で、このホテルに来る途中で買ってきたものだ。
何度目かの気まずさを感じてたら俺の身体に影が落ちてトランクスが一気に脱がされ、脚の間に智紀さんが割って入った。
「……あの」
「なにー」
「もう?」
いきなりローション?
いつもならなんていうか……いわゆる前戯ってのがわりと長い……んだけど。
「そう」
笑いを含んだ声と同時に腰を持ち上げられ、いつの間に開封したのか冷たいローションが落とされる。
「今日はまずちーくんに突っ込みたいなーって」
屈託なく言いながら智紀さんは俺の後孔に指を沈めてきた。
「……っ……、く……っ」
勝手に出る声をなんとか耐えようとするけど、結局微かにこぼれてしまう。
ここ数カ月で慣らされてしまった後孔は少しの抵抗はあるけどあっさり智紀さんの指を飲みこんでしまう。
ローションの滑りとともに動く指。
圧迫感に声がでる、けど、長い指が内壁を擦るようにしながら拡げていく妙な感触にも声がでる。
はっきりとした快感ではまだないけど、もう身体は知っているから指が動くたびに疼いて反応してしまっていた。
「千裕の中は相変わらずキツイね」
「……っん」
ぐるり、と俺の中でまわる指。
それが前立腺を擦りあげて強い刺激に声が裏返る。
くちゅくちゅなる水音と最初から感じてしまってる自分が恥ずかしくて目線を合わせないようにしながら呟いた。
「……緩かったら……困ります……よっ……」
俺の強がり、なんてこの人にはお見通しに決まってるだろうけど。
案の定智紀さんが軽く吹きだして―――、
「イ……ッ……」
「確かに、ちーくんがガバガバだったらどーしよう」
いきなりもう一本指を追加され増した圧迫感に眉を寄せた。
思わず智紀さんの腕を掴むと、目を細めた智紀さんと目が合う。
「緩すぎはいやだけど、俺のカタチにぴったりだったら問題ないよ」
「……なんですか……それ……っ、オッサンくさい……ってか……変態くさい……っんっ」
―――男なんてそんなもん、だろ?
っていう今日二回目の言葉とともにグッと指が押しこまれ、同時に唇を塞がれた。
最初から激しくて、そうでなくてももう余裕なんてものは少ししか残ってなかったっていうのに全部根こそぎ奪われる。
食い尽されそうなキスに頭の芯から熱で溶かされていく。
絡みつく舌に翻弄されながらも後孔で蠢く指に背中がのけぞってしまう。
触れ合う素肌と、開かれた脚に触れる智紀さんの履いたままのズボンがじれったく感じた。
俺だけ全裸で、全部持ってかれてるのに、智紀さんはどれだけ余裕残ってんだろう。
いつの間にか指を増やされ水音が増して聞こえる中、唾液がこぼれるのを感じながら智紀さんの首に手をまわした。
「……っ、とも……、んっ」
好き勝手に蹂躙される咥内で反撃ってわけじゃなく智紀さんの舌を噛んでみる。
ようやく唇が離れて「なに?」ってちょっとだけ乱れた息が吹きかかった。
「もう……挿れて、いいです……」
「もう?」
「……早く突っ込みたかったんじゃないんですか……」
「突っ込みたいよ。早く千裕を食い尽したい」
面白そうに笑いながら俺の耳を甘噛みしてくる。
ざらりと舌が耳孔を這う感触に肌が粟立つ。
「……だから……いいですよ、もう」
きっとからかうような眼差しでも向けられそうだなって思ったけど―――引き抜かれた指に喪失感に疼く身体を宥める術なんてひとつしかない。
手を伸ばして智紀さんのベルトに指をかけると、口角を上げた智紀さんが俺の指に指を重ねてベルトを緩めた。
そして一気に脱ぎ捨てると腰を浮かせられて、
「ッ、ぁ」
熱いものが身体を貫いた。
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