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第56話
数えきれないくらいしてきたキス。
慣れはしないけどいつもと同じキスのはずなのに、何かが違うように感じるのはなぜなんだろう。
ぬるりと舌先が咥内を這うだけで腰が重くなってすがりつくように智紀さんに抱きついてしまう。
心臓の音がやけに速く大きくて耳にうるさい。
角度を何度もかえてひたすらに舌を絡み合わされ。
そうしながら智紀さんの指が髪に触れてきて、耳を辿り、首筋から肩へと落ちていくのに小さく身体が震えた。
片手で腰を抱かれ密着した身体。
下肢に当たる硬い感触は智紀さんのもので、俺も同じようになってるってのはわかってる。
肩から、身体の線を辿るように動いて行く指が隙間を縫って下腹部に触れ、そして慣れた手つきであっさりと前をくつろげて中へと滑りこんでくる。
「っ、……んっ」
直接俺のに触れられて大袈裟なほどに身体がびくついた。
ぬるぬると上下する指にもう押えきれないくらい先走りが溢れてるってことを知らされて羞恥に腰が引ける。
無意識に逃げかけた俺をしっかりと抱きしめなおして、キスしたまま掌で俺のを包み込みきつく扱きだした。
「……っ、は、……っ、まっ」
待ってくれと、ぎゅっと智紀さんの腕を掴む。
俺のものからなのか、それとも唾液の混ざる音なのか、小さな水音が大きく俺の耳に響く。
ほんの少し顔が離れ視線が絡んだ。
智紀さん、と上擦った喘ぎ混じりの自分の声が恥ずかしい。
俺を見つめてくる色欲に染まった目にさらされて、ますます心臓が軋むように跳ねて、さらに強く掴んだ手に力を込めた。
「待って、……っ、ちょっ」
ずっとペースを落とすことなく動き続ける手に焦って声を出すけど止めてくれるはずがない。
ふっと目を細めた智紀さんが俺の唇を舐めて、首筋に顔をうずめる。
舌が肌を這う感触に眉を寄せ、もう一度待ってくれって言う。
―――本当、ほんのちょっとでいいから、ペースを弱めてほしい。
正直このままだとあっという間に……吐き出してしまいそうだった。
あの路地裏からずっと燻っていた熱は限界まで煽られて、いつ爆発してもおかしくない。
触れられた瞬間からイキそうだった、なんて、さすがにないだろ。
それに智紀さんのにも触れたい。
だから、ちょっと待ってくれって言ってるのにこの人が聞くはずもなく。
追い上げられるまま吐精感に身体を震わせていると不意に電子音が鳴りだした。
「―――……っ、智紀さん……っ、電話……ッン」
俺のじゃない。智紀さんのだ。
着信音とともに微かな振動が伝わってくる。
無視するつもりなのか、そのまま動きを止めない智紀さんに俺は迷いながらもポケットをさぐって智紀さんのスマホをとりだした。
ちらりと見えた液晶。
「っは、……んっ、待っ、電話っ。あの、松原さんの……お兄さん、ッぁ」
もう片方の手が胸をすべり突起を弄ってきて間抜けなくらいに声が裏返った。
スマホを持つ手の力が緩みかけたけど、紘一さん、と表示されていた名前に溶けかけていた理性がほんの少し引き戻される。
仕事の電話なんじゃないのかってスマホを智紀さんの肩に押しあてたら、無表情に智紀さんはスマホを受け取り―――
電源をオフにした。
「……っえ、電話!」
「どうせたいした用じゃないからいいんだよ。ていうか、ちーくん」
スマホは床に落ちていた鞄の上に放られる。
そんな投げて大丈夫なのかと目で追っていた俺は、鈴口に爪を立てられて息を飲んだ。
ぎゅっと握られ強く擦られる。
「我慢しないでイっていいよ」
ほら、と先端をぐりぐりと押され、甘く囁かれ。
俺は言われるままに白濁を吐きだしてしまった。
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