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―― 身体と愛と涙味の……(9)
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―― 太陽が…… 眩しいよ……。
ホテルを出た頃にはもう11時を過ぎていて、冬だと言うのに強い陽射しに照らされて目が眩む。
いや、昨夜不摂生をした俺の眼にだけ眩しいのか。
眩しい太陽の下でくらくらして、覚束ない足元。
「大丈夫? 負ぶってあげようか?」
クスクスと笑いながら、みっきーが耳元で囁く。
「だ、大丈夫だからっ」
こんなお天道様の下で、耳元で囁かないで…… こ、腰にくるっ。
なるべくみっきーから身体を離そうと試みてはいるけれど、ふらふらとする俺の身体を、みっきーは当然のように腰に手を回してゆっくりと歩き出した。
「そんなにフラフラなのに危ないでしょ? これくらいは許してよ」
確かに身体は怠くてフラフラしていて、しかも歩く度に昨夜何度も受け入れた部分にまだ違和感と熱っぽさがあって、みっきーに支えて貰わなければ、立つ事すら怪しかったけど。
朝っぱら…… いや、もう昼前の高い位置にある太陽の下では、周りからどんな風に見られているのかと思うと、恥ずかしくて顔を上げる事すら出来なかった。
「さて、どうしようか…… このままタクシーで俺んちまで行こうか」
みっきーの言葉に驚いて顔を上げる俺。
ま、まさか、みっきーの家に行って、また……? なんて、思わず昨夜の情事が頭を過ぎって焦ってしまう。
「え、いや、それは悪いから……」
言いかけた言葉は、みっきーの唇に塞がれて途切れてしまった。
「んーーーーっ!!」
そのまま抱きすくめられて、ディープなキスを仕掛けられる。
ちょ……、マジ勘弁してください。 こんな真昼間に、しかもホテル街から出てきたばかりで、人通りも多いこんな場所でなんて事を!
みっきーの胸を、拳でどんどんと叩いて抗議してみたけど、全然効果なし。
やっと唇を開放された時には、みっきーが手を上げたのか、いつの間にか目の前にタクシーが停まっていた。
「さ、取り敢えず乗って、ね?」
促されて仕方なくと言うか、そうするしか他に道は無く、俺は大人しくタクシーに乗り込んだ。
俺とみっきーがシートに座りドアが閉まる。 前方の信号は赤で、俺はぼんやりと横断歩道を渡ってくる人の波を眺めていた。
―― ッ!!
横断歩道を歩いている大勢の人の流れ中に、よく知っている顔が見え隠れして心臓が止まりそうになった。
まるでオーラでも出してるように、そこだけ浮き彫りに見える。 遠目で見ても色が白くて黒目がちな眼。 さらさらの黒髪。
俺が見間違う筈はない……。 まさか、こんな所で会うなんて。
―― 透さん……。
咄嗟に俺は俯いた。
透さんは、こちらに気が付いているんだろうか……。
角度からしたら、普通に前を向いて歩いているようにも、こちらの方を見ているようにも見えた。
でも、こちらはタクシーの中だし……。
でも……、
でも……、
もしも、横断歩道を渡る前に、タクシーに乗る前の俺を見つけていたとしたら……。
心臓があり得ないくらいドキドキしている。
―― どうしよう……。
恐る恐る少しだけ顔を上げると、横断歩道を渡り終えた透さんは、こちらの方に向かって歩道を歩いてきていた。 信号が青に変わりタクシーがゆっくりと滑り出して、歩道を歩く透さんと俺の乗ったタクシーがすれ違う。
その一瞬、タクシーの窓ガラス越しに、透さんと俺の目が合った……気がした……。
そのままタクシーは加速して、透さんとの距離はどんどん遠くなっていった…… と、思う。
俺は、後ろを振り向く事も出来ずに俯いたままだったから、実際は頭の中で小さくなっていく透さんの姿を想像する事しかできなかったんだけど……。
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