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—— 身体と愛と涙味の……(18)
—— さっき先輩に言った事…… ?
「…… ほんき……?」
心地良くて、うとうとしていたから、最初は何の話なのか分からなかった。
「…… そう、本気」
眠りに落ちかけていた意識を呼び戻すように、みっきーの息遣いが俺の髪を揺らした。
「バーで初めて直を見た瞬間、惹きつけられて心を掴まれて、何かドキドキして、まぁ、これって一目惚れかなーって……」
「…… え?」
「でも最初は、自分の弟がした事に責任を感じて、本当にただ介抱するだけのつもりだったけど……」
囁くように話すみっきーの低音の声が、朦朧とした意識の中に、まるで夢か何かのように甘く…… でも、その言葉は、はっきりと胸に響いてくる。
「直に触れているうちに…… もう止まらなくなって…… それに……、」
ぴったりと肌を寄せているみっきーの胸から、聞こえてくる心音がやけに大きくて……。 なんだか俺の心臓も、それに吊られるようにドキドキしてくる。
「透さんの名前を直が呼んだ時、物凄く嫉妬して、胸が苦しかった」
「……」
『透さん』の、名前が出ると、途端に胸の奥が切なく騒つく。
「直が、透さんは恋人じゃないって言ったから、なら、直の中からその人を追い出して、俺でいっぱいにしたくなった」
抱き寄せられた腕の中で見上げると、これまで見た事のない真剣な眼差しで見つめ返されて、俺はその瞳に吸い込まれそうなのに……。
「だから、何度も何度も抱いてしまったけど……」
まるで悪戯をした子供のように、ばつの悪い顔をするみっきーが、やけに可愛く思えてくるのに……。
今、俺の頭の中には、優しく微笑む透さんの顔が浮かんでいる。
「そんな顔をして……、あんなに何度も抱いたのに、直の中から透さんを追い出す事は出来なかったのかなぁ」
額に落としてくれるキスは、とても優しくて、それでいて熱くて。
俺の瞳を覗き込む切れ長の目は、僅かな反応も逃さないように見つめてくる。
「直にとって、透さんてどんな存在なの?」
俺は、はっきり答える事もできなくて、ただじっと、みっきーの瞳の中で、揺らぐ自分を見ていた。
「透さんの事、教えてよ」
柔らかく訊かれて、何か、赦されたような気持ちになって……、 俺は、少しずつ、少しずつ、みっきーに話した。 今までのこと、全部。
透さんとの出逢い。
ずっと憧れていた事。
クリスマスイブに偶然会って、初めて会話して、なりゆきみたいに身体を繋げた事。
透さんには、結婚しても、忘れる事のできない彼女がいる事。
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