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 —— 身体と愛と涙味の……(27)

「……あの……、俺を送ってきてくれた人、サークルの先輩のお兄さんで……、車の中で煙草を吸っていたから……」  ——う、嘘はついていない……。だけど、胸の奥が何かに刺されたように痛い。  唇を寄せられた項にかかる息が、まるで火を押し付けられているかのように熱い。 「……付き合ってるの? さっきの人と……」 「…え?」  透さんの声は優しくて、責めてるって感じはしないのに、振り向いて透さんの顔を見る事ができない。——何かが壊れてしまいそうで、怖くて。 「ここに……」  そう言うと、透さんは俺の項にキツく吸い付いた。 「……あ……ッ」 「キスマーク付いてるね」 「……ッ」  項なんて自分では見えないから、全然知らなかった。知っていたところで、どうする事も出来なかったけど。  もう、これ以上誤魔化せない……って、誤魔化しちゃいけないって、分かってるけど、胸が痛くて、苦しくて、何て言っていいのか全然判らなくて……。  ——まずはちゃんと透さんと向き合って、自分の気持ちを確かめておいで。  みっきーに言われた言葉が、頭の中でグルグルまわってる。  何か話さなきゃって、思うのに、言葉がまるで見つからない。  身じろぐ事も出来ずにいると、背後から冷たい指に顎を獲られ、顔だけ振り向かされて、肩越しに唇を塞がれる。 「……ん……ふ……、ッ」  性急に挿し入れられた舌が歯列をなぞり、上顎を撫で、頬の内側、舌の裏側と、咥内を余すところなく侵していく。  舌の付け根からキツく吸い上げられて鋭い痛みが走った。  透さんとは、あんなに何度も何度も、甘く痺れるようなキスを交わしたのに、今しているキスは、苦しくて切ない。  それでも、深く、もっと深くと、キスは激しさを増していく。  俺を後ろから抱きしめる透さんの腕も、苦しいくらい強くて……そして、僅かに震えている。  ピーーーーーーーッ  沸騰した事を合図する、ケトルの笛の音が鳴り響いても、透さんの切ないキスは終わらない。  いつもなら、優しさと暖かさで俺を包んでくれる透さんの腕が、今日は痛い。  身体に感じる痛みではなくて、心が痛い。 「……ッ、ん……、と……るさ、ん、ケトル……、んッ……」  重なった唇の隙間から途切れ途切れに言葉を紡げば、透さんは激しく噛み付くようなキスを続けながら、腕を横に伸ばしてコンロの火を止めた。  ケトルの笛の音は止んだけど、代わりに沸騰しているお湯の跳ねる音がシュンシュンと暫く響いているのが聞こえていた。  長いキスの間に唾液が溢れて、水音を立てる。 「……あ……ふ……ンンッ」  唇を離さずに身体を反転させられて、さらに激しく咥内を貪られて、息も出来ない程の苦しさと、胸の中を抉る痛みに、悲しみが込み上げてくるのを絶えた。  ——俺のせいで……。  いつもは温和な透さんの、激しい感情を痛い程感じるから……俺は、なすがままに身を任せる。  ジップアップニットの前を開けて、シャツのボタンがゆっくりと外されていく。  全てのボタンを外すと、透さんの手が開いたシャツの隙間から滑り込んで素肌を撫でた。  「……ッ」   一瞬、透さんの動きが止まり、苦しそうな声が微かに聞こえて、露になった肩に透さんの唇が落ちてきた。 「……抱かれたんだね、さっきの人に」  俺の肩を甘噛みしながら、呟く声は掠れていて、哀しい声が堪らなくて、 「……とおるさ、ん」  俺の肩に顔を埋めている透さんの髪に指を挿し入れて、顔を見ようとしたけど、透さんがそれを制する。 「ダメだよ、今、俺の顔を見ちゃ」  言いながら、透さんの長くて綺麗な指が、俺の首筋から鎖骨、胸、腹と、辿るように触れていく。 「……っ」  俺はその綺麗な指が動くのを、身を竦めて、ただ見ているだけしか出来ない。  透さんの指が辿ったのは、みっきーが付けた、赤い情事の痕だったから。

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