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—— 身体と愛と涙味の……(32)
どれくらいの時間、こうしていたのか……。
結局、下は何も穿かないまま冷たい床に座り込んで、膝の上に抱えたボールの中の苺を全部食べてしまっていた。
一個食べるごとに、涙が出てきて、俺の涙腺はきっと壊れてるに違いない。
——なんでこんなに哀しいんだよ。 わけわかんねぇ。
なんでこんな事になっちゃったのかな。
妹って…、なんだよ……。
俺、一人で勘違いして…なんだか混乱して、あんな事、透さんに言っちゃって……。
——他に好きな人がいるのに、俺を抱いたくせにッ―――
でも……、透さんは俺の事、どう思ってたんだよ……。それから、俺も…… 透さんの事……。
「はぁ……」
何もする気にならなくて、出るのは溜め息だけ。
このまま朝まで、ここに座っていたら身体が痛くなるかなぁ……なんて、馬鹿な事考えていたら……突然、玄関のドアをノックする音がして、驚きで身体が跳ねた。
——まさか……透さんが戻ってきた?! ……な、わけないよな。
一応マンションの1階の自動ドアは、暗証番号入れないと開かないはずだから、きっと啓太だ。
同じマンションの4階に住んでいる啓太なら、直接部屋に来てもおかしくないし……。
でも今は誰とも会いたくなかった。
——俺は今、出掛けていていないんだ。ごめん啓太、帰ってくれ! 後で電話するからっ。
なのに、玄関のドアが開く音がする。
—— しまった!鍵かけてなかったんだ!
俺はギョッとして玄関の方に目を向けた。
「……痛みと腫れに効く、軟膏は必要じゃないですかー?」
惚けた声で惚けた事を言いながら小さいチューブを手に、その人は玄関のドアにもたれて立っていた。
「……何してんの、みっきー」
俺を送った足で、店に行くと言っていたみっきーが、何故ここに居るんだ?
「んーー、まぁ、ちょっと心配だったから?」
言いながら、靴を脱いで部屋に入ってくる。
「どうやって入ったの? 1階の入り口、暗証番号が必要なんだけど」
「ああ、ここの住人かな? ちょうど入っていくとこだったから、一緒に後ろから入っちゃった。で、部屋番号は、下の郵便ポストで調べてきた」
なんだか明るい笑顔で話すみっきーに、ちょっとだけ心が和んで、思わず小さな笑いが漏れた。
「それより、どうしちゃったの、そんな格好して……、やっぱりこれ必要でしょう?」
言いながら、軟膏のチューブを差し出すみっきー。
「いらないってば、痛くないしっ」
「まぁまぁ、明日になったら、また痛くなる事もあるから」
断ったのに、俺の手に無理やりチューブを握らせられた。
「……つか、店は? 行かなかったの?」
「ああ、うーん、透さん? 1時間待って出てこなかったら、もう店に行くつもりだったんだけど……、1時間しないうちに出てきたから……様子見に来ちゃった。店は他のスタッフいるから連絡しておいたし」
「……そっか……、やっぱりあの時気が付いていたんだね」
車を降りる時、やっぱりみっきーは透さんに気が付いていて、わざとキスしてきたんだ。
「なんで、透さんだって分かったの?」
「そりゃ、わかるよ。車の外から一直線に、熱い視線が俺に突き刺さったからね」
みっきーの悪びれない態度に、わざとキスしてきた事とか、どうでもよくなって、怒る気もしない……。
「ちゃんと自分の気持ち、確かめた?」
そう言ってみっきーは、床に座り込んでいる俺の前でしゃがんで、顔を覗き込んでくる。
「ん? 何があった?」
少し首を傾げて俺と目線を合わせ、大きな手で包んだ俺の頬を、親指だけ動かして何度も擦ってくる。
まるで、涙の跡を消そうとしているみたいに。
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