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—— 想う心と○○な味の……(2)
「今日はバイトないよね?」
そう言いながらも、すでに車はみっきーの店の方面へ走ってる。
「うん」
そういう強引さも、みっきーならではの事で、俺はもうすっかり慣らされてしまってる。
「で……、あれから透さんに会えた?」
「え?」
俺は、ちょっと驚いて、ハンドルを握るみっきーの横顔を見上げた。
みっきーは、俺に気を遣ってか、あれから透さんの名前を口に出さなかった。なのに、今、なんでいきなり?
「会ってないよ……」
「ふーん、もう会わなくてもいいの?」
ちゃんと進行方向を見詰めながら、ふざけた様子もなく真面目な横顔。
それがいつもと違う雰囲気だし、みっきーの方から透さんに会わなくていいのか? なんて言い出すこと自体、質問の意図が分からない。
「……今は……無理して会わなくても、いいかと思って……」
「透さんからは連絡無いんだ?」
「……うん」
なんだか重苦しい空気が車の中に漂ってる。
本当に、なんで急に透さんの事をそんなに気にするのか、少し怪訝に思っいながら、みっきーの次の言葉を待っていた。
前方の信号が赤になるのが見えて、ゆっくりとブレーキがかかり車が停止線で停まる。
「……もう、逢うなよ」
視線を前を前に向けたまま、一呼吸置いて、みっきーはそう言った。それは、とても静かな声なのに、どこか強い言葉。
「……なんだよ、急に」
「そろそろ俺の気持ちに応えてくれてもいい頃かなーって思って」
恐る恐る訊き返せば、いつものみっきーの口調が戻ってきた。
前を向いていた視線が、ゆっくり俺の方に向けられて、頬にそっと手が触れる。
「みっきー?」
「……なんてな、ちょっと言ってみただけ。そんな真剣な顔すんな」
そう言いながら、触れていた手で頬を思いっきり抓られた。
「いって! ……ちょっ、なんだよっ」
みっきーの手を振り払って、怒ったふりをしたけど、みっきーが言った事は冗談だけじゃないって事も分かってしまって、少し胸の鼓動が速くなった。
「……あのさ……」
信号が青に変わる。ゆっくりとアクセルを踏み込んで、車が動き出したタイミングで、一旦みっきーの言葉が途切れた。
「何?」
「ああ、うん、たいした事じゃないけど、今日は話しておきたい事があって……」
「なんか、改まった話?」
「いや、大した事じゃないんだけど、店で話すよ」
いつになく真面目な雰囲気に、何の話だろう……と、みっきーの横顔を窺いながら考えていた。
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