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—— 想う心と○○な味の……(4)
「分かりました。では、ごゆっくり」
森岡さんが柔らかい笑顔で会釈をして部屋を出て行き、ドアが閉まるのを確認してから、みっきーは俺の方へ視線を戻した。
どうしたんだろう。 誰も部屋に入れるなとか、車の中にいる時から何かいつもと違う感じはしていたけど。
俺はまだ二人と知り合って間がないから、詳しいことは分からないけど、みっきーが海外なんかにふらっと出かけて、暫く留守にする時も、店はもちろん、いろいろな雑務も森岡さんに任せっきりにできるくらいには、信頼しているみたいだった。
そんな森岡さんにも、聞かれたくない話って事なのかな。
「なんなの? 人に聞かれたくない話なの?」
「んー、そうだな。聞かれたらマズイって言うよりも、直と二人きりになりたかったからかなー」
「なんだよ、それ! でも何か話があるんでしょ?」
「まあまあ、いいから、取り敢えずサンドイッチでも食べて。 お腹空いてるでしょ?」
そう言って、俺の目の前にサンドイッチのプレートを近づける。
なんとなく、話を逸らされたような、それとも、言い難くて先延ばしにしているような……。
でも、本当に案外どうでもいい話なのかなって、ちょっと身体の力が抜けて、目の前のサンドイッチを摘んだ。
「美味いな、このサンド」
「でしょ?」
ちょうど小腹も空いてて、遠慮もせずにバクバク食べる俺を、みっきーは楽しそうに見ている。
「……ひっきー、はへないほ?」
「直、口にいっぱい入れすぎだよ」
みっきーが食べてないから、食べないの? って言ったのに、口に入れたまま喋ってしまったから上手く喋れなくて、大笑いされてしまう。
「ほら、マヨネーズ付いてるし………」
言いながら、俺の唇の端に付いてるマヨネーズをみっきーが指が拭って、その指を……ペロッと舐めた。
「……」
なんか…前にも似たような事が……。
一瞬……脳裏に浮かんだ光景に、胸がキュッと痛くなった。
あの時は、クリスマスケーキの生クリームだった……。
あれが、きっかけだったんだ。
透さんは、あの時どうして俺なんかに、あんな事したんだろう。
「ん? どうした?」
その光景に意識を持っていかれて、心配してくれているみっきーの声も遠くに感じて、代わりにあの時の透さんの声が甦ってくる。
——『…… 直くん』
『俺と一緒にいるの、嫌?』
嫌なんかじゃ……、なかった。 もっと一緒にいたいと思ったんだ。……だから……。
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