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 ―― 想う心と○○な味の……(22)

 久しぶりのバイトの日。  やっと外出できるって言うのもあるんだけど、今日は金曜日。  もしかしたら、透さんに会えるかも!なんて期待しちゃったりして。  朝から、なんとなくテンションが高い俺は、オープンの時間よりも1時間以上前に店に来てしまった。  **  取り敢えずホールスタッフのユニフォームに着替えてから厨房を覗いてみる。 「おはようございまーす」  厨房には、オーナーシェフの相田さんとパティシエの池田さんが、何やら真剣な顔で話をしていた。 「お早う、直。 随分早いな。もう身体の方は大丈夫か?」  相田さんが俺に視線を移して、優しく訊いてくれる。 「はい、もう大丈夫です。 バイト、休んじゃってすみませんでした」 「若くてもインフルエンザには勝てないからなぁ。 今日も無理するなよ」  オーナーシェフの相田さんは、いつもスタッフ全員のの体調を気遣ったり、気さくに話をしてくれるから、バイトの俺でも話しやすい、兄貴のような存在だ。 「ありがとうございます」  ぺこりとお辞儀をして、ホールの清掃でも始めようと顔をあげた時、目に入ったのは二人の前に置いてあるケーキ。 見た事のないケーキだった。 「美味しそうですね? 新作ですか?」  いつもパティシエの池田さんは、閉店後にケーキの試作を一人で残って作っていたりするんだけど、新しいのが出来たのかな。 「いやー、これは相田さんが作ったんだよね」 「え? そうなんですか?相田さんスイーツも作れるんですね」 「失礼な、俺は何でもできるんだよ、直くん」  そう言って相田さんは、ちょっと頬を膨らませて、拗ねたふりをしてる。 「来週のバレンタインに向けてね、いつもは普通にチョコレートのギフトを用意するんだけど、ちょっと変わったケーキとか、どうかなと思ってね」  目の前のケーキは、ふわふわしたチョコスポンジに、たっぷりのチョコ生クリーム。 俺の好きな苺で飾り付けられている。 「でも結局これって、普通にチョコケーキだよねって、話してたとこなんだよ」 「もっと、うちにしか売ってないみたいな、オリジナリティーが欲しいんですよね」  真剣な表情で、ケーキを見詰めながら話す二人。  ―― へぇ~、じゃあこのケーキはボツなのかぁ。 店に出したら普通に人気出そうだけどな。  そう思いながら、俺はふと思いついた事を、そのまま口にした。 「シュークリームって、ハート型とかに出来ないのかなぁ」 バレンタインって言ったら、ハートでしょー? と、言う単純な考えと、そういえばこの店にはシュークリームが無かったなぁ、って思い出しただけの話なんだけど。 「直、それいいかも」  二人がほぼ同時に、そう言った。 「え? 出来るの?ハート型」 「できるよ、シュー生地を絞りだす時に成型すればできる」 「じゃあさ、そのシューをココア混ぜたクッキーシューにしてさ、中にチョコクリームを……」  ハート型シューから、どんどんアイデアが膨らんでいる様子の二人。 「直、ありがとう。 いいヒントになったよ」 「え? いえ、俺なんてそんな、適当に言っただけなのに……」  本当に適当だったから、お礼を言われて、顔が熱くなる。 「ご褒美に、このケーキ食っていいぞ」 「え?! マジですか?! いいんですか?!」  甘い物には目がないから、思わず飛び上がって喜ぶと、「ホント直はケーキ好きだよな」と、二人に笑われてしまった。

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