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 —— 想う心と○○な味の……(23)

 池田さんが ケーキを綺麗にカットしていくのを見ているだけで、涎が出そう。  温めた包丁を、生クリーム部分にすーっと滑らせるように入れて、スポンジ部分で水平にスライドさせながら切っていけば、計算したように配置されたいちごとチョコの生クリームの側面が顔を出した。 チョコと苺の色のバランスがサイコーに綺麗で美味しそう! 「いただきます」  見た目同様、フォークを入れた感覚は、生クリームは勿論だけど、スポンジもすごく柔らかい。 口に入れると、舌の上で溶ける感じ…… それでいて、甘すぎない。 「…… おいしぃ……」  もー、ほっぺが落ちそうって、こういう事を言うのかってくらい美味しくて、思わず自分の頬を手で押さえていたら、「直は、本当に美味そうに食べるよな」と、相田さんに笑われた。 「俺も、こんな美味しいスイーツ作ってみたいなー」 「直は、甘い物好きだもんね。 あ、じゃあ、作ってみたら?」  突然の相田さんの提案に、びっくりして顔をあげた。 「え? 俺が? 無理ですよー。 料理とかも全然やってないし」 「普通にご飯作るのとは、また違った面白さもあるよ。 あ、そうだ! 今回のバレンタイン用の新作、池田くんの助手をやってくれる?」 「ええええっ?」  俺と……、勿論、池田さんもびっくりして、声をあげてる。 「あの、俺なんか助手とか、足手まといなだけですよ」 「いや、直はスイーツに関しては、舌が肥えてるから、参考になると思うよ。 な? 池田くん」 「あぁ、そうですね。 色々ヒントもくれるし、俺は構いませんよ」  池田さんまで、何言ってるんですか……。 「上手く出来たら、彼女にでもプレゼントしたら? 逆バレンタイン? って感じでさ」  そう言って、あはははっなんて、相田さんは声をあげて笑ってるけど。  俺はいつの間にか、『彼女にプレゼント』の部分を、『透さんにプレゼント』って置き換えて考えていた。 『じゃあさ、透さんにあげれば?チョコレート』 『バレンタインって、好きな人に愛の告白する日なんじゃねーの?』  啓太の言った言葉を思い出して……、今度いつ会えるか、分からないけど……、バレンタインの日に、もう一度透さんのマンションに行ってみようかな、なんて。  池田さんの足手まといになるかもしれないし、出来るかどうか分からないけど……。 「あ、あの池田さん、俺、頑張りますんで、よろしくお願いします」  気が付いたらもう、そう言って勢いよく頭を下げていた。  手作りのスイーツを持って、透さんに会いに行く。   そう思ったら、なんだかドキドキしてくるし、それでもう、すっかりその気になっちゃうから、ホント、俺って単純だなぁって、つくづく思う。

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