140 / 351
—— 想う心と○○な味の……(38)
「だから、力になれる事もあるかもしれないよ。 透の友達に結婚の事とかの情報を聞けるかもしれないし、実家にだって電話して……、」
…… あぁ……、そうだ。 小さくてもまだ可能性は残されている。 みっきーの言う通り、その気になれば、もう一度だけでも透さんに会えることも出来るかもしれない。
だけどもう……。
「みっきー、ありがとう。 でもいいよ、もう」
「え? なんで?」
「結婚するんなら、もういいんだ。 透さんが結婚するって決めたんなら、それを邪魔する事なんて出来ないし」
「本当に結婚するのかどうかも、分かんないのに?」
透さんから連絡が無いのが、一番の答えじゃないかと思う。
何も言わずに行ってしまったのは、そういう事なんだ。
それは、どんなに良い方向に考えても、変える事の出来ない事実だから。
だから……、これ以上は、もう……。
「なんかの映画みたいにさ、結婚式場から攫うとか…… さ?」
冗談とも、本気ともつかないみっきーの言葉に、ちょっとだけ笑えた。 みっきーの事だから、本気も入ってるだろうけど。
「透の事、忘れられるの?」
忘れたくないけど……。
今はまだ、忘れられないけど…。
「……忘れなきゃな……」
そう呟いた俺に、みっきーは頷きもせず、否定もせず、ただ黙って微笑んでいた。
いつかきっと、時が忘れさせてくれるでしょ?
そういうもんでしょ?
また新しい出逢いがあって、その人とまた恋をして。
そうしたらきっと、その人に夢中になって、その頃には、今の苦しい想いも痛みさえも忘れてる。
ああ、そんな事もあったなー、なんて思うに決まってる。
いつだって、『今』の想いが一番なんだから。
***
その日は、みっきーのマンションに泊まるかと言ってくれたけれど、少し独りになりたかったのもあって、俺のワンルームに送ってもらった。
「みっきー、いつメキシコに行くの?」
車を降りる時に、そう言えばと思い出して、運転席のみっきーを振り返る。
メキシコに行くまでに、みっきーに俺のクッキーシュー作ってあげないとね。
「んー、4月からかな。 何? やっぱり一緒に行く?」
にんまりと、笑いながら、みっきーらしい応えが返ってきて、「行かないよ」って、俺は笑って応える。
じゃあまたね。 と、言って、動き出したみっきーの車を、見えなくなるまで見送って、俺は独りの部屋へ、帰った。
ともだちにシェアしよう!