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 —— 想う心と○○な味の……(39)

 *****  3月に入って、寒さも段々と和らいできて、季節は移り変わる。  長すぎる春休みは、殆どバイトに明け暮れていた。  働いている時は、余計な事を考えなくて済む。  ただ…… 最近俺は、透さんを無理に忘れようとするのを止めていた。  透さんと会っていたあの頃から、時間はどんどん遠ざかるのに、記憶だけは鮮明で色褪せる事もなく。  忘れなきゃと思うけど……、そう思うだけで胸が苦しくなるから。  透さんが、居なくなってしまったと知ったバレンタインデーのあの夜、みっきーと別れて自分の部屋に戻ってシャワーを浴び、すぐにベッドに入った。  何も考えずに、ただ眠りたかった。 でも、身体は疲れているのに、目を閉じていても、なかなか寝付けなくて。  何度も寝返りを繰り返し、考えるのを止めた筈なのに、浮かぶのは透さんの事ばかり。  もう会えないと思うと、苦しくて、痛くて、辛い。  まだ外は暗いのに、新聞配達のバイクの音が聞こえた頃、喉が渇いて一度起き上がり、冷蔵庫を開けてペットボトルの水を飲んだ。  そのまま小さな冷蔵庫を背もたれにして、床に座り込んでしまうと、動くのも面倒で。  もう会えないと思うと辛い、忘れなきゃと思うのも辛い。  じゃあ透さんに迷惑はかけないから、勝手にまだ好きでいてもいいかな。  そう考えると、少しだけ気持ちが楽になった気がした。  膝を抱えて目を閉じると、漸く眠気を感じて、少しの間、冷蔵庫に凭れたまま微睡んでいたと思う。  東の空が少し明るくなった頃、啓太が部屋に尋ねてきた。 ドロドロに酔っ払って。  どうしたのかと話を訊けば、  14日のバレンタインは、ゆり先輩にチョコレートを貰ったらしい。  良かったじゃないかと言えば、貰ったのは自分だけじゃなくて、その時同じ場所にいた他の男5人くらいと、同じチョコレートを貰ったそうだ。  …… つまり…… ?  それで泥酔したのかと思ったら、  その時、ゆり先輩は今夜誰と夜を過ごすかって話になって、みんなでクジを引いたらしい。  …… なんだそれ…… ?  とにかく、啓太はクジには外れて、他の残った男共と、明け方まで仲良く呑んでいたらしい。  それで啓太は、ゆり先輩を諦めるのかと思ったら、今も果敢にアタックをかけている。  ゆり先輩が、啓太含めて6人に渡したチョコレートって、義理チョコなのかと俺は思っていたんだけど……、実は全部本命のつもりだったそうだ。  それでいいのか、啓太…… って、思うけど、それでも好きだから…… って、啓太は言った。  —— 好きっていう自分の気持ちは、誤魔化せない。

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