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 ―― 想う心と○○な味の……(42)

 時が忘れさせてくれる…… なんて、あれ嘘だよ。  だって、最後に会った時から、日々が過ぎて遠ざかっても、想いは全然変わらない。  記憶は、後悔や悲しみも思い出させるけど、相手のことを想う気持ちは、暖かい。  こんな気持ちになれる人に出逢う事は、もうないかもしれない。  きっと本当の恋なんて、一生の内に一回あるか無いかじゃないのかな。  知らないで終わる一生も、あるかもしれない。  知らない事に気が付かないことも、あるかもしれない。  だから……  もうこのまま会えくなってしまっても……。  透さんに出逢えて、本当に人を想う事ができて、こんな気持ちを知る事ができて、幸せだなって思う。  ***  いつもと同じ、駅までの道。  駅近くの公園の前を、通り過ぎようとして、ふと立ち止まった。  通り抜けると、駅までの近道になる公園。  あのバレンタインの日から、この公園の中だけは通らなくなっていた。  透さんと出逢ったこの公園だけは、想い出が強すぎて。  でも今夜は、通り抜けてみたい気分になっている。  透さんと出逢ったあの夜、空気が凛と澄んでいて、夜空の星が綺麗だった。  今夜の空は少し霞んでて、星はあまり見えていない。 「そう言えば、ここの公園に一本だけ桜の木があったな」  今年は、桜の開花が例年より10日くらい早いらしいから、この公園の桜も、もしかして……。  そう思いながら、公園の中をゆっくりと歩く。  公園の外周に植えられた木々に遮られているせいか、通りを走る車の排気音もあまり聞こえない。  歩くたびに、砂利を踏む俺の足音だけが辺りに響いていた。  程なく、前方に桜の花の色が見えてくる。 「満開だな……」  オフィス街の駅前にあるこの公園は、ベンチくらいしか置いてなくて、昼間は近くの会社員達がお昼を食べにきたりして、そこそこ賑わうけど、夜のこの時間は、街灯も少なく薄暗いから、たとえ近道でもこの中を通り抜ける人は少ない。  桜の木の近くにある1本の街灯が明るすぎず、ちょうど良い感じに桜の花を照らしていた。 「特等席を独り占めできるな……」  桜の木の下に、ベンチがあった事を思い出して歩を進める。  ―― クリスマスイヴの日に、透さんが座っていたあのベンチ……。  木々に囲まれた小道の緩いカーブを過ぎると、桜の下に設置してあるベンチが見えてくる。

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