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―― 想う心と○○な味の……(45)
「俺の両親はね、俺と静香 …… あ、静香って妹なんだけど……、俺たちが子供の頃に離婚したんだよ」
それで、俺は父に、静香は母についていくことになった……。 と、透さんは、前を向いたまま、少し目線を下げて話し始めた。
「父親には、元々家同士が決めた許婚がいたんだけど、母と出逢って半ば駆け落ちのような形で結婚したんだよ。 なのに結局は、母を捨てて、許婚のところに戻ったんだ。 二人も子供がいるのに」
「そんな……、何か理由とかがあったんじゃ……」
「父の実家が経営していた会社がその頃経営難で、その許婚と結婚する事で資金繰りの援助を受けられる事になっていたんだ」
「じゃ、じゃあ仕方なく…… ?」
透さんは、目線を下げたまま、小さく首を横に振る。
「父と別れてから、母は静香と母の実家に戻って暮らしていたんだけど、程なくして病気で亡くなってね。 それなのに、父は葬式にも行かなかったんだ」
愛し合っていたことなんて、まるで嘘のように、幻だったかのように、父の中には母との事は過ぎた日の思い出にもならない。
―― ただの遊びだった……。
と、透さんはそこで一旦言葉を区切ると、小さな溜め息を吐いた。
「だからと言って、再婚相手の事を愛しているわけでもない。ただの会社の為の結婚だった。 そんな父を見てきて俺もいつしか、一生続く愛なんてありはしないと思うようになって、今まで真剣に人を好きになった事がないんだ」
胸の奥がツンと痛んだ。
いつも優しい透さんの奥深いところに、そんな部分があったなんて。
「付き合っている人が浮気をしても、他の人を好きになっても、別になんとも思わなかった。 どこか冷めていたんだ…… 今まではね」
そう言った後、透さんは俺の方に視線を向ける。
「でも、直くんがあの人とキスしているところを見て……、絶えられなかった。 初めて嫉妬したんだよ」
言われて、胸が苦しくなった。
やっぱり許してもらえないのかもしれないと思った。
「直くんの事、あのカフェで初めて見た時、可愛いなって思った。 話をしてみたいなって、ずっと気になっていたんだ」
「え?」 俺は思わず隣の透さんを見上げた。
それは意外な言葉だった。 透さんも俺と同じように前から俺のことが気になっていた?って。
「クリスマスイブの日に、ここで出逢って一緒に過ごしたら、もっと直くんの事を知りたくなって……」
突然、胸がドキドキと高鳴りだした。 透さんが何を言おうとしているのか、その先を勝手に想像してしまって。
そんな期待をしたら駄目だって、自分に言い聞かせるんだけど、それでも胸の震えが止まらない。
「それ以上触れちゃ駄目だと思ったのに、一度触れてしまったらもう止められなくて……」
顔が熱くなってくる……。
「それでも、この気持ちは一時的なもので、また冷めてしまうんじゃないかと、直くんを傷つけてしまうんじゃないかと、自分が怖かったんだ」
透さんは、膝の上で拳を握り、話を続ける。
「でも冷めるどころか、直くんが俺じゃなくて他の人を選んだと思うと…… 嫉妬で激情に駆られて、あんな傷つくような抱き方をしてしまって……」
―― 本当にごめんね。 と言葉を続けて、透さんは寂しそうに笑う。
違う、違う!透さんは! そんなんじゃっ……。
なんとか気持ちを伝えたくて、気が付いたら俺は必死に透さんの腕にしがみついていた。
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