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―― 想う心と○○な味の……(46)
「…… 直くん?」
しがみ付く俺に、透さんは少し驚いたような声で名前を呼ぶ。
透さんが俺に謝るような事は何もなくて、悪いのは俺で、俺は透さんのこと…… だから、だから、逢えなくなるのは絶対嫌なんだ……。
「透さんは悪くない! 悪いのは全部俺なんだから!」
みっきーの事、なんて言ったらいいのか分からないけど、透さんにあんなに苦しそうな顔をさせたのは、俺のせいなんだから。
「あの飲み会の夜、色々あって…… 流されてしまったのは事実だけど、でもそれは俺がしっかりしてなかったのが悪かったんで……」
腕にしがみ付いたまま透さんを見上げれば、驚いた瞳で見詰め返してくる。
「ホントに俺がどうしようもなくアホで! 透さんに許してもらえなくても仕方ないのは、俺の方で!」
俺は、言いたい事が上手く纏まらなくて、それでも、ただただ、必死に想いを伝えたくて。
「他の人を選んだりしないっ、だって……、俺……、」
でもこれだけは、俺の本当の気持ちだから……。
「俺は、透さんの事が好きなんだから!」
ずっと言いたくて……、でも逢えなくて……、言えなかった想いをやっと言えた。
「俺も……、あの店でバイトするようになってからずっと、透さんの事が気になっていたよ」
もしかしたら、その頃から好きと言う気持ちがあったのかもしれない。
ただ、男同士だと言うだけで、そんな気持ちに蓋をしていたんだ。
「透さんが結婚するって聞いて、マンションに行ったら引越した後で……、もう会えないと思うと、息が出来ないくらい辛かった」
「結婚の事、知ってたの?」
そう問われて、小さく頷いた。
「妹さんが、カフェのフロアマネージャーに、話していたから……、それで……っ、」
言ってるうちに、涙が滲んでくる。
それを隠したくて、透さんの肩に顔を埋めてしまって、ジャケットに涙が染み込んでいく。
それでも顔を上げれないでいると、「直くん……」と、俺の名前を呼ぶ優しい声が頭の上から降りてきた。
「俺も……、好きだよ」
そう続いた言葉に胸が震えて、ゆっくりと顔を上げれば透さんの瞳と視線が絡んだ。
「俺も、直くんのことを、想っているよ」
漆黒の瞳が優しく語りかけている。
「結婚はしないよ。 会社絡みの縁談だったから、断ってきたんだ。 それに……」
それに…… と言って、俺の頬を包む優しい手。
「こんな可愛い告白をされたら、もう直くんを離せなくなるよ」
なんか、透さんの言葉は、そのままの意味で受け取っていいのか躊躇する。
だって……、信じられる? 透さんが今、俺のことを好きだって言ったのか?
「直くん……?」
俺が反応もせずに、ポカンとしてるからか、透さんが俺の名前を呼んで目線を合わせてくる。
「…… キス…… しても?」
そう言われて、言葉の意味を理解すれば、一瞬で顔が熱く火照った。
透さんは、チュッと、触れるだけのキスをくれて、また目線を合わせる。
「本当は、俺の方から駄目元でも告白したかったのに、直くんに先を越されちゃったな」
少しはにかみながらも、真っ直ぐに見詰めてくれる瞳が嬉しくて、今度は俺から透さんに、軽く触れるだけのキスをした。
お互いの額をくっつけたまま、暫く見詰め合って、自然に笑顔になってしまう。
それでも俺は、まだ何だか信じられなかった……。 幸せすぎて。
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