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 ―― 想う心と○○な味の……(47)

 それにやっぱり気になっている事がまだひとつある……。 「透さん……、あの……、俺をマンションまで送ってきてくれた人、透さんの……」  そこまで言いかけた言葉が、透さんにチュッと、リップ音を立てて短いキスを落とされて遮られてしまう。  最後まで言えなかった俺の代わりに、「俺の高校の先輩だった……」と、透さんが言葉を続けた。 「やっぱり…… 気付いて……」  それが余計に透さんを傷つけていたんじゃないかって思う。 「ごめんなさ……」そう言いかけた唇に、透さんの人差し指が押し付けられた。 「そのことは、いいんだよ。 謝らなくても……。 今こうして直くんの気持ちを知ることができたんだから」  そう言いながら、きつく抱きしめてくれる。 それだけで心がホッと落ち着いていく。  俺も透さんの背中に手を回して強く抱き返すと、腕の中に抱えていた紙袋が、二人の身体の間で、カサリと音を立てた。 「あ……、」  この公園で、また偶然出逢って突然訪れた幸せに浸っていて、すっかり忘れていたけど……!  腕に抱きしめたままのクッキーシューを潰してしまうところだった。  透さんは、抱きしめる力を緩めて、俺が抱えている紙袋に視線を落とす。 「これ、カフェの?」 「うん、今日、誕生日だから……。 オーナーシェフや、スタッフの皆から、誕生日祝いにって……」 「そう……、誕生日だよね」  透さんは、そう言うとポケットからリボンの付いた小さな箱を取り出して、俺の掌の上に乗せる。 「……え? これ……」 「19歳おめでとう」 「お、憶えてたの?」  確か、出逢った日に一度だけ、透さんに俺の誕生日を教えた記憶がある。  一度しか、言った事なかったのに、憶えてくれてたんだ。 「今日、本当はカフェに会いに行くつもりだったんだけど……、なかなか勇気が出なくて。 その……、きっと嫌われてしまっていると、思っていたから。 ここで待ってても駄目だと思ってたんだけど、もし逢えたらこれを渡そうと思っていたんだ」  少し照れたように、そう言ってくれる透さんがすごく好き。  開けてごらん、と促されて、綺麗にラッピングされた箱を開ける。 「うわ……、綺麗」  中に入っていたのは、ブルーのクリスタルのキーリング。  ダークブルーのクリスタルの中に、ライトブルーの小さな星が散りばめられている。 「…… 宇宙みたい……」 「直くんと初めて逢った時、星が綺麗だったから……、これを見かけた時、直くんを思い出して、思わず買っちゃってた」  そう言うと、色白の頬を少し赤く染めて、俺から微かに視線を逸らせている。  透さんが時々見せる、年上なのに可愛いその仕草をされると、いつも俺の顔が緩んでしまう事、知ってるのかな。 「透さん、ありがとう。 俺、これ一生の宝物にする!」 「一生って…、大げさだよ直くん」  またお互いの視線が絡んで、短いキスを交わした。  クリスタルを街灯の灯りに透かしてみると、中の薄いブルーの星が煌いていて綺麗だった。  その時、冷たい風が吹いて、桜の花びらがひらりと舞い落ちる。  ふと、空を見上げたら、さっきまで空全体を覆っていた雲が途切れて、美しい星が瞬いていた。  ―― まるで、出逢った時のように。

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