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 ―― 想う心と○○な味の……(55)

 漸くラッピングを外して、箱の蓋を開けて、クッキーシューを透さんが持ってきたプレートの上にのせる。 「可愛いね、これ」 「うん、実は、これ俺が作ったの」 「へぇ! そうなんだ。直くん、凄いね!」  誉められて、ちょっと照れてしまう。  このクッキーシューを作るきっかけになったのは、バレンタインの時。 透さんにあげたくて、頑張ったんだった。 「透さんの為に作ったんだよ」って言うと、凄い不思議そうな顔されたけど、いいんだ。 その話は、秘密だよって、笑って誤魔化した。  シューの間に飾ってあるメッセージプレートに、池田さんが書いてくれた文字は、『Happy Birthday』でもなければ、『誕生日おめでとう』でもなくて……。  ―― 『元気出せよ!』  俺、そんなに元気なかったのかな。 「直くん、元気なかったんだ?」 「そんなつもりなかったんだけど……、やっぱり元気ないように見えたのかな」  透さんと、もう会えないと思っていたから。 透さんの事、忘れようとすると苦しいから、忘れないでいるって思う事で、自分を励まして。 「ごめん……」  そう言って抱きしめてくれる腕は、すごく暖かくて、今すごい幸せで。 この幸せが嬉しくて、ちょっと涙で目が潤んでくる。 「ね、透さん、これ一緒に食べよう」  そう言って、大き目サイズなクッキーシューを崩さないように手で持ち上げた。 「え? どうやって食べるの? フォーク使わないの?」  透さんは、ちゃんとフォークも用意してくれてたけど、 「二人で、一緒にかぶり付いて、食べよう」  無理じゃない? って、言いながらも、透さんも結構乗り気になってる。  二人でそっとクッキーシューを手で支えて、お互いが反対側から食べる体制に入った。 「透さん、せーので、食べるんだよ」 「うん、分かった」  二人でニヤニヤしながら、クッキーシューを挟んで目で合図する。 「せぇのぉー!」  同時に両端からかぶり付くと、当然だけどクリームがぐにゅっとはみ出した。  ―― はみ出すのは分かるんだけど…… 「……」  どうして俺だけ、クリームだらけになってしまうんだろう。  透さんは、唇に少し付いただけで、ちょっと指先で拭えば、大丈夫な量なのに。  俺は、口の周りどころか、はみ出して落ちてしまったクリームが、何も着ていない胸や手にも付いちゃって。 「あー、やばっ、シーツに落ちそう……」  シュークリームを持ったまま、片方の手で胸に付いているクリームを拭おうとしても、手にも付いちゃってるから、どうにもならなくて、取り敢えず指に付いてるクリームを舐めようとしていたら、その指を透さんに掴まれた。 「直くん……」  じっと俺の目に視線を合わせながら、赤い舌が俺の指に付いたクリームを舐めとって…… それから胸元に付いたクリームも……。 「とおるさん……っ、」  クスッと笑う透さんは、色気だだ漏れな表情で……。  なんか…… 前にも似たような事が……   なんて考える間もなく、透さんの舌が俺の唇に触れてきて、ペロッとクリームを舐め取った。  唇の周りを丁寧に舐め取った後、離れずにそのまま深く口づけられて……。 「…… っ、ん、ん」  唇を割り、侵入してきた舌に咥内を撫でられたら、また痺れるような快感が生まれる。  俺なんて、それだけでもう、腰が砕けそうになってるのに……、  透さんは、咥内を味わってあっさりと唇を離すと、「ん、美味しい……」なんて言って微笑んだ。

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