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—— Moonlight scandal(10)
「あー、大変だよな。社会人は」
「そうだな」
啓太の言葉に俺も頷く。
透さんを見ていると、本当に大変そうで……。
平日は、あまり会えないから、夜にメールとか送っても、まだ仕事中だったり。
ちゃんと家に帰って、寝る時間とか、飯食う時間とか、あるんだろうかって、心配になる。
「でもさ、俺らだって就職が決まって、社会人になったら、自由になる時間とか、減るんだぜ? そんな時に、好きな相手に分かってもらえなかったら、どうよ?」
啓太の話に、俺は頷く。
「…… そりゃ、困るよな」
俯いて考え込んでいた俺の胸の奥の小さな痛みに、啓太の言葉が、すんなりと入ってきた。
「だからさ、透さんだって、本当は少しでも、直と一緒にいたいと思ってるんじゃねえの? 一緒にいれなくて、寂しいと思ったのは、透さんも同じだってことじゃね?」
啓太の言葉に、霧がかっていた頭の中が、すっきりと晴れて行くようだった。
「けいたぁー!」
お前、ホントにいいやつだなぁーと、思わず啓太の首に抱きついた。
「ちょっ! おまっ! 何するっ?! 離れろって!」
啓太は慌てた様子で、首に絡み付いてる俺の腕を、無理やり引き剥がした。
「なんだよー、感謝の意味を込めたスキンシップなのに!」
「あっ……、暑っくるしいっちゅーの!」
啓太は、本当に暑いのか、真っ赤な顔をしている。
「そんなに暑いのか。 なんか飲む?」
言いながら俺は、勝手知ったる何やらで、啓太の部屋の冷蔵庫を開けて、飲み物を物色する。
「啓太んち、冷蔵庫ん中、飲み物は冷酒しか入ってないじゃん」
どんだけ酒豪だよ、ちょっと俺より先に二十歳になったからって。
「ま、いっか、冷酒呑もうか!」
俺は、胸のつっかえが取れた清々しさに、日本酒が苦手なのも忘れて、冷蔵庫からよく冷えた冷酒を取り出した。
「あっ! 馬鹿! ダメだってば! お前、弱いくせに!」
啓太が慌てて、俺の手から冷酒を奪い取って、冷蔵庫に片付ける。
「えー、なんでだよ? いいじゃん。 今日はもう、どこにも出掛けないんだろ?」
「そうだけど! 直は酒呑んじゃダメなの! アイスでも食っとけ!」
そう言って、何故か必死になって、アイスを俺の手に握らせる。
「…… なんだよ、ケチ」
結局……、何故か俺は本日二つ目のアイスを食べるハメになった。
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