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―― Moonlight scandal(12)
***
スーパーで、あれこれ迷ったけど、今晩のメニューは無難にカレーにした。
カレーだったら、市販のルーさえあれば、滅多に失敗しないだろうし。
これでも随分マシになったと思うんだよ?
だって、前はジャガイモの皮さえ、剥けなかったわけだし。
透さんや啓太みたいに、手際よくはできないけど、なんとかカレーも、簡単なサラダも出来上がって、あとは透さんの帰ってくる時間に合わせて、炊飯器のスイッチを入れたし。 お風呂の準備もできてるし。
「俺って、めっちゃいい嫁さん」なんて、自分で言ってみる。
さっき、透さんからメールで、「今から帰る」なんて、帰るコールもあったし。
もうそろそろ帰ってくるなーって、思ってると、インターホンの音がする。
「あれ?透さんかな」
透さんは、いつも自分で鍵を開けて入ってくるのに、変だなと思いながらモニターを見ると、そこには、知らない女の人が映っていた。
どうしよう、セールスか何かかなぁ、と思ったけど、急用だったりしたらマズいし。
—— 出た方がいいかな……。
「はい……」
応答すると、一瞬の間が空いた。
「……」
俺も、何て言っていいのか迷っていると、怪訝そうな声が返ってきた。
『…… 篠崎透の部屋で間違いないでしょうか?』
女性の問いかけに、やっぱり出たのはまずかったか…… と焦ってしまう。
「はい、そうですけど」
『…… そう。 ところで、貴方はどなた?』
いきなりそう訊かれて、戸惑ってしまう。この人はいったい誰なんだろう。
—— セールスじゃないのか?
「あ、あの、そちらこそどちら様でしょうか」
セールスじゃなければ、透さんの知り合いなのかもしれないのに、俺は焦ってしまって、つい、そう言ってしまったんだけど。
その女性の応えた言葉に、腰がぬけそうになるくらい、驚いた。
「…… 私は、篠崎透の母ですけど」
ええええ?!
透さんのお母さん?!
ってことは、透さんのお父さんの、再婚相手ってこと?
突然の出来事に、俺の頭は真っ白になってしまった。
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