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 ―― Moonlight scandal(16)

「そんなところで、いったい何をしているの?」  透さんのお母さんはそう言いながら、思いっきり怪訝そうな表情で、俺のことをじろじろ見てる!  透さん が、ドアを背にもたれていたから、ドアスコープから見られていたという事は、ないと思うんだけど……。  さっきまでしていた行為で、火が点きかけていた身体は、まだ余韻で火照っていて、俺は堪らずにその視線から逃れるように目を逸らした。 「篠崎家の長男が、ご近所の目もあるのに、こんなところで…」  続けられた言葉に、心臓がドキッと跳ねた。  —— やっぱり見られてた? 「ちょっと、話をしていただけですよ」  透さんが、お母さんの視線を遮るように、さりげなく俺を背後に隠してくれる。 「美絵さんを、あまりお待たせしてはいけないので、出掛ける準備をしますから」  透さんはそう言って、俺の方を振り返る。 「ごめんね、直くん。 送ってあげられないけど……」  申し訳なさそうに謝ってから、俺にだけ聞こえるように、「後で必ず連絡するから。 週末のこと決めよう」と、耳元に囁いた。  ドキッとして見上げれば、優しい瞳で見つめ返されて、俺は『うん』と、声には出さずに頷いた。  それから透さんは、お母さんの方に向き直り、部屋の中へ入るように促して、透さんも後から続いて玄関の中へ足を踏み入れる。  そしてドアを閉めながら、「週末は……、」と言い掛けて、俺に視線を合わせると、声を出さずに口だけ動かして、悪戯っぽく微笑んだ。  透さんが何を言ったのか、すぐに分かって、俺は自分が耳まで真っ赤になってしまったのを感じていた。  パタンとドアが閉じられてから、火照った頬を両手で触ってみる。 「…… あつい」  顔の火照りが治まるまで、動けそうにない。  エレベーターで、誰かと乗り合わせてしまったら、恥ずかし過ぎるほど、顔が熱いから。  —— 週末は……、の後、透さんが口パクした言葉は、 『いっぱいセックスしようね』  —— まったく! 何を言ってんだよ、透さんは。  俺は、火照った顔を、手でパタパタと扇ぎながら、エレベーターへと向かう。  透さんて、普段はクールで、そんな事を言いそうにもないのに、こうやって、時々不意打ちで、俺をドギマギさせる。  お母さんの急な訪問で、透さんとゆっくりできる時間は無くなってしまっけど、透さんの不意打ちと、週末の約束が楽しみ過ぎて、嫌な思いをしたことも薄らいで、一人ぼっちの帰り道も、不思議と足取りは重くなかった。

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