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 ―― Moonlight scandal(22)

「そうだ、まだお料理もいっぱい残ってるし、直くんも会場にいらっしゃいよ」  大きな瞳をぱっちりと開けて、俺の顔を覗きこんで、話しかけてくる美絵さんからは、ふんわりと甘い香りがする。  前から後ろにかけて片編み込みで、片方にふわふわと纏めたヘアスタイルがよく似合ってて、本当に可愛い。 「え、でも…俺、こんな普段着だし……」  普段着でなくても、あの宴会場には、絶対に入りたくないけど……。 「大丈夫よ、後ろの端っこの方なら、目立たないし。 この後ね、婚約発表があるのよ」  薄いピンクのグロスで艶々の小さめな唇が、口角を上げて微笑む。  透さんの部屋で会った時は、楚々としていた美絵さんとは、今日はやっぱりどこかイメージが違う。 「…… 婚約発表……」  美絵さんの口から出たその言葉に、ただ茫然としてしまう。  早くこの場から立ち去りたいと思うのに、美絵さんの視線から逃げるように、目を逸らす事しかできなくて、顔が見えないように、顔を背けていると、「くすっ」と小さい笑い声が聞こえた。 「私達が結婚したら、新居には是非遊びにきてね。 直くん」  ―― 嘘だ。 そんなこと、透さんは言ってなかったし、婚約の事だって、ちゃんと話をするって言ってた。 「…… 結婚なんて、嘘、でしょう?」 「どうして嘘だと思うの?」  美絵さんと視線を合わせずに、やっとの思いで言えた質問を質問で返されて口篭ってしまう。 「直くんて、透さんの何? どういう関係なの?」 「…… 俺はっ……、」  たたみかけるように質問を浴びせられて、答えようにも、どう言えば良いのか分からなくて、やっぱり、そのまま俯いてしまった。 「ふーん、やっぱり言えない関係ってわけなのね」 「違っ、そんなんじゃなくて!」  美絵さんの言葉に、慌てて顔をあげて、否定しようとしたけれど言葉が続かない。 「隠さなくてもいいわ。 マンションで会った時から、怪しいと思ってたし」 「あ、怪しいなんて……」  それ以上言えない俺は、膝の上で拳を握り締めるしかなくて……。 「今日は、記者の人達も来ているのよ。 あなたの事がバレたら、とんだスキャンダルね」  言い返せないことが、凄く情けない。 「今すぐ帰ってよ」  間を空けずに、冷たい言葉を浴びせられる。 「大丈夫よ。 今帰れば誰にも見つからないし、透さんは私と結婚するんだから、スキャンダルは無かったことにできるわ」  美絵さんの言ってることは、きっと正しい。  俺なんかが、こんな所でウロウロしていて、関係がバレてしまったら、本当に大変な事で。  透さんと美絵さんが、結婚すれば会社も安泰で、一番自然なことで……。  だけど、俺は……、そんなの絶対に嫌だ。 嫌だけど……。 それでも、ここで婚約発表の邪魔をするわけにはいかない。  もう兎に角、直ぐにでもここから逃げ出したい。  俺がここにいる事を、透さんが気が付いたら、また困らせてしまう。

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