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—— Moonlight scandal(30)
「そんな所に、突っ立ってないで、二人とも此方に来て座りなさい」
『二人とも』って言われて、ビクッと身体が震えた。
恥ずかしさと緊張で、青ざめてたりしないだろうか。
「あ、あの、はじめまして、高岡直といいます」
おずおずと、透さんの背中から横に出て、取り敢えず頭を下げた。
そのまま顔を上げれずに、固まっていると、クスクスと二人の笑い声が聞こえてくる。
「え?」
俺、何かおかしかったかな?いきなり過ぎた?
不思議に思って、頭を下げたまま、隣の透さんを視線だけで見上げると、口元に軽く握った拳を充てて、笑い声を堪えている。
「直くん、そんなに固くならなくていいよ。 ほら頭あげて」
背中をポンポンと軽く叩かれて、顔をあげて前を見ると、部屋には窓際にベッドと、中央に応接セット、大きなテレビもあるし、サイドテーブルには、パソコンまで置いてある。
そしてロマンスグレーの、これぞ紳士と言う感じの人が、パジャマの上に 手触りの良さげな薄手のガウンを羽織って、椅子に座って、ニコニコしながら此方を見ていた。
スラリとした体格や、優しそうな笑顔が、どことなく透さんに似ている。
—— この人が、透さんのお父さん……。
今まで持っていたイメージとは、随分違う。
優しそうで、透さんをそのままナイスミドルにした感じ。
「どうぞ……、直くん、って言ったね? こっちに来て座ってくれるかな」
「はい……。 失礼します」
促されてお父さんが座っている位置と、向かい合わせに置かれているソファーに、透さんと並んで座った。
「透が、友達を連れてくるなんて、珍しいね。」
お父さんが話していると言うのに、俺は緊張で俯き加減に、膝の上に置いた自分の手ばかり見つめてしまっていた。
「この前、父さんに一度、会って欲しい人がいると、話したことを憶えていますか」
「ああ、憶えているとも」
「彼、高岡直くんが、その人です」
透さんが、いきなり切り出した話に驚いて、思わず顔を上げて隣の透さんを見上げた。
透さんは、いつもの優しい表情で、俺を見つめてくれるんだけど、俺は、どう反応したらいいのか分からなくて、ただ顔が熱くなっていくのだけを感じていた。
「ほう?」
と、お父さんは、一瞬驚いたように、目を見開いて、俺の方に視線を移動させる。
透さんが言ったその意味を、解っているのか、いないのか。
目の前に座っているお父さんは、とても穏やかな表情で、俺のことを見つめているけど。
「会わせたいと言うから、私はまた、結婚したい相手でもいるのかと思ったんだが」
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