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 —— Moonlight scandal(31)

 —— ああっ、やっぱり親ならそう思うのは当然だし!  透さんは、直球で話をしようとしているけど、そんな事、認めてもらえる筈がないのにって思う。 「まさか、相手が男だとは、思わなかったな」  お父さんは、そう言って声をあげて笑う。  息子がいきなり男を連れてくるなんて、思ってもいなかったって、分かりすぎる。 「美智代がこの前、透のマンションで会ったと言ってたのは、直くんなんだね」  美智代って……、お母さんのことか。  俺が部屋に居た事も、お父さんは知っているんだ……。 「美智代が妙な関係じゃないかと、もしそうなら、とんだスキャンダルだって、随分心配していたが」  お父さんの言葉に、俺は、もう俯くしかなくて。 「まさか、本当にそうだったとはね。 美智代もなかなか勘が鋭いね」  俺は居た堪れなくなってきて、逃げ出したい衝動に駆られて、膝の上に置いた手を、固く握りしめていた。  その手を透さんが優しく包み込むように、そっと握って……、  —— えっ……、透さんっ  手を握るのはマズイんじゃ…… って、思わず顔を見上げた俺に笑いかけて、そして透さんは話し始めた。 「そうです。 だから俺は、前にも言ったように、美絵さんと結婚して会社を継ぐ事はできません」  俺の手を握っている透さんの 手は熱くて、緊張しているからか、冷たくなってしまっていた俺の手に、その熱が伝わってくる。 「俺はずっと父さんを見てきて、本気で人を愛する事なんて、一生無いと思っていました」  お父さんにとっては、辛い言葉だったかもしれない。 それでも、いつもよりもトーンが低く、落ち着いた声で話す透さんを、お父さんは、優しく見守るような眼差しで、静かに聞いていた。 「でも、直くんに出逢って、どうしようもなく惹かれて、そして想いが通じて……。 同じものを見て、同じように綺麗だと感動したり、傍で一緒に笑ったり、泣いたり、怒ったり……」  —— 今、とても幸せで……。  そこで一旦、言葉が切れて、透さんの視線を感じた。  隣の透さんを見上げると、俺を見つめる優しい瞳と、視線が絡んだ。  そして、視線を合わせたまま、透さんは言葉を続けたる。 「そんな幸せが、この世にあるって教えてくれたのは、直くんなんです。 好きな人と一緒に過ごせる幸せを大切にしたいと思えるんです」  透さんの言ってくれた言葉に、なんだか胸が熱くなってきて、すごく嬉しくて……。  —— 俺も、同じだから。  好きな人と一緒に過ごせる幸せを俺に教えてくれたのは、透さんだった。  でも……、俺……。 俺は透さんのこと……。 「そうか」  ずっと黙って、透さんの話を聞いていたお父さんが、静かに口を開く。

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