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 —— Moonlight scandal(32)

 透さんの言葉は、俺にとっては、すっごい嬉しい事だけど、でも、そんな事をお父さんが認める筈がないのは当たり前の事で。  お父さんが、何を話すのか、大体の事は想像がついてしまって、緊張で身体が強張ってしまう。 「…… 良かったな、透」  —— へ…… ?  今、なんて? …… 良かったって、言った?  何かの聞き間違いか、それとも俺の耳が都合のいいようにしか聞いていないだけなのか、分からないけど。  俺は顔を上げて目の前に座っている、お父さんを見た。  お父さんは、透さんの話を聞いても、さっきまでの態度と変わらず、優しくて、見守るような眼差しで、透さんと……、俺のことを見つめていた。 「だから私は、前にも言っただろう? やりたい事も出来ずに、好きな相手も幸せにできないのは、私だけで十分だって」  その言葉はまるで、透さんと俺との関係を認めてくれたように聞こえるんだけど……。  だけど、椅子の背もたれにゆったりと預けていた上体を起こし、姿勢を正すように座り直して、お父さんが続けた言葉は、今言ってくれた意味とは、逆のことだった。 「まあ、婚約破棄した上に、篠崎家の長男が、ゲイだったなんて、美智代が言う通りスキャンダルになるからな……」  その言葉に、俺は、胸の奥がキュっと掴まれたように痛くなる。 次に続く言葉を聞くのが怖い。 そう思いながらお父さんを窺い見る。  お父さんは、透さんを見つめて、ニヤっと口角を上げた。 「勘当されても仕方がないな」  —— 勘当!? 「はい」  —— は……、はいって、透さん! 納得しちゃっていいの? 「直くん」  焦って、透さんを見上げるけど、すぐに名前を呼ばれて、お父さんへと視線を戻した。 「君は、透の事をどう思っているのか、私に教えてくれるかい?」  透さんと同じ漆黒の瞳が、真っ直ぐに俺を見つめてくる。  嘘や誤魔化しなんて、すぐに見抜かれそうな真剣な眼差しに、俺も素直な気持ちを、話すのが下手でも、ちゃんと伝えたい……。 そう思った。 「…… 俺は……」  でも…。 俺は透さんのこと……、透さんが言ってくれたように、…… 本当に透さんを幸せにしてあげているのかな。  それは正直、まだ自信ないけど、透さんを想う気持ちは、絶対にずっと変わらない。  逢う度に、昨日よりももっと好きになってくなんて事、今まで経験した事がなかった。 「俺も、透さんとずっと一緒に過ごせることが、一番幸せなことだと思っています。 今日あった嬉しかった事や、楽しかった事や、辛い事も、悲しい事も、一日の終わりに一番に伝えたい相手は、透さんだけです」  それは、俺が今言える正直な気持ち。  例え反対されても、この気持ちだけは、お父さんにも、透さんにも伝えたかった。

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